名前は親からの愛

「今やっと産まれたよ!」

ゴールデンウィーク最後の日の朝。カーテンの向こうが明るくなり始めるころ、待ちに待った知らせが届きました。

妹の長男、私にとって甥っ子夫婦に、赤ちゃんが生まれたんです。
妹は、おばあちゃんになりました。

「おめでとう、ほんとによかったね」と妹に伝え、私は窓を開けて深呼吸をしました。
清々しさと喜びが一緒になって、体の中に広がっていきました。

「名前は決まっているの?」
私がそう聞くと、妹は話し始めました。

甥っ子は、名前の候補が書かれたメモを見せてくれたそうです。
それを見て妹は、書いてある名前をどう読んだらいいのかわからなくて戸惑ってしまった、と言いました。

「名前は親が付けるものだから、私は口出ししないって思ってはいるんだけど」
妹は自分に言い聞かせているようでした。

妹の話を聞いて、私は自分の名前にまつわる「いわくつきのエピソード」を思い出しました。

私の名前は「陽子」と書きます。名前を付けてくれたのは、父だと聞いています。

男の子が欲しかった父は生まれたのが女の子でがっかりして、母にろくに相談もせず、一人で勝手に陽子と名付けて届を出したのだそうです。

母からこの話を何回も聞かされたおかげで、私は男の子じゃなくて父をがっかりさせた、イコール私は女の子だから父からは愛されない、長い間そう思い込んできました。

今なら母の気持ちもわかります。
大変な思いをして私を産んだのに、男の子が良かった、なんて言われたとしたら。
嫌みを言いたくもなるでしょう。

でも幼い私には、母のこの話が父への嫌みだとはわかりませんでしたし、母の話を言葉のままに受け取ってしまっていました。

その埋め合わせなのか、母はよく私の名前の意味を話してくれました。
陽子という名前には「太陽のように明るく、周りも明るくする人になりますように」という思いが込められているということを。

でも父からは、名付けた理由を聞いたことはありませんでした。

甥っ子夫婦に赤ちゃんが生まれてから10日。
妹から「名前が決まったよ」というメッセージが届きました。

私もずっと気になっていたのですが、候補に上がっていた名前ではなく、新たに考えた名前に決まったとのことでした。

その名前には「幸せの中心となって、周りの人に喜びを与える人になりますように」という願いが込められていると聞きました。本当にすてきな名前だと思いました。

甥っ子夫婦が、どれだけ一生懸命この名前を考えたのか。
漢字の意味や音の響き、名字との相性、画数。いろんな見方から考え悩み、選んだ名前。

名前は親からの愛そのものなんだ、と私は感じました。

名前に込められた思いは「この子を幸せに育てていく」という、親の誓い、覚悟のようにも感じられました。

これからの長い人生、この子は何度もこの名前を呼ばれ、何度も自分の名前を言って、何度も名前を書くことでしょう。
そのたびに、この子の幸せが願われ、祈られるように私は思えたんです。

私は、介護施設にいる父に手紙を書きました。

「どうして陽子と名付けたのか教えてほしい」と、思い切って聞いてみたんです。
父はどんなことを思って私に陽子と名付けてくれたのか、知りたくなったからです。

数日後、父から返ってきたはがきには、予想していなかったまさかの答えがありました。

「当時活躍していた女優の名前から付けました。とてもきれいな人でした。」と書いてあったのです。

私はとても驚きました。
えええ!女優?!
そんなこと、今まで一度も聞いたことはありませんでした。

「きれいな人でした」の文字から、少し照れくさそうにしている父の顔が見えた気がしました。
私は父の純粋さにまた触れられたように感じ、そして気づいたんです。
生まれた娘に女優の名前を付けた父に、母は嫉妬していたのだということを。

そんな父のことも母のことも、かわいく微笑ましく思えてきて、私は笑ってしまいました。
心にあったわだかまりは、あっさりとどこかへ消えてしまったのです。

私は自分の名前のエピソードから、ふてくされて素直になれなかったり、自分をたくさん責めたりしてきました。
でも本当はそうじゃなくてよかったのだと、やっと気がつきました。

名前の意味は母の後付けなのかもしれないけれど、両親が私のことを思い、私の幸せを願ってくれていることを、改めて受け取ることができたように思えました。

名前は、付けてくれた親からの愛、願い、そして祈り。

私が名前を呼ばれたときは、両親の愛を大切に感じよう。
私が名前を書くときは、両親の願いを思って丁寧に書こう。
私が何かに迷うことがあったら、私には両親が授けてくれた名前というお守りがあることを思い出すように。

私の人生の中で、今一番自分の名前が気に入っています。
太陽のように明るく、周りも明るくする人になろうと思います。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

「私にはなんの魅力も価値もない」と自己嫌悪し、自分を隠してきた生きづらさを乗り越えたことから、お客さまの中に隠れている魅力や才能を引き出し、本来の自分らしさを取り戻すことを大切にしている。 やわらかな雰囲気を持ち、どんなことでもやさしく受けとめてもらえた、前向きになれる、と好評である。