板挟みになってしまう心の奥にあるものとは?

職場で板挟みになって辛い、という経験をしたことはありませんか?

私も特に中間管理職の時代にたびたび板挟みになったことがありますが、かなり辛いものですね。

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例え話ですが、ある中小企業で、会社の経営層が会社全体の利益を考えて「今年の目標は年商10億円だ!」と決めてきたとします。

それを言われた営業部では「えっ?ちょっと待って。去年あれだけ残業してがんばってやっと8億円達成したのに、2億もアップ?おまけに今年は営業部の人員削減で人手が足りてないのにアップなんて?!冗談じゃないですよ!」と衝撃が走ったとします。

ここで、営業部の部長あたりであれば、直接上層部のミーティングに参加して、「人員も減っているのに2億アップは無理です。それならば人員を増やしてください!」と言ったりできるかもしれません。

すると経営者から「いやいや、この2億は社員のベースアップと福利厚生のために使おうとしているんだよ。」という話を聞けたりして、「なるほど、それならがんばるか。」と部長自身も思えたりするかもしれません。

そして、営業部に戻って課長に「こういう目標だからがんばってくれ。」と伝えたりするわけです。

問題はこの課長の立場と気持ちです。

自分も現場で営業として売上げを上げなくてはならない立場。
そして、メンバーの士気を盛り上げなくてはならない立場。

でも、自分含めメンバーが昨年、どれだけ苦労したかもわかっている。
人員が足りていないのも身に染みてわかっている。
自分だってこれ以上残業したり奔走したりしたくない。
メンバーは遠慮なく自分に不満をぶつけてくる。

でも、部長はもう決まったことだと言って、もう交渉の余地はなさそうだ。
確かにベースアップがあるなら悪い話だけではない。
自分が真っ先に不満を言っていい立場でもない。

しかしこのメンバーの不満感と疲労感を一体どうしたらいいんだろう?

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悩みますよね。

ここで、同じ立場の課長がほかにも何人もいて、みんなでどうしたら売上が上がるか、どうしたらメンバーの士気が上がるか、相談したり分担したりできれば良いのですが、板挟みになるときというのは、たいがい独りぼっちなんですね。

私も39歳で初めて中間管理職になった時、あまりにしんどくて、上司に愚痴をこぼしたことがあります。

そうしたら、その上司に「管理職手当というのは孤独手当なんだよ。もらってるんだからがんばれ。」と言われて、「ええー!孤独手当?それなら要らないのでスタッフに戻してください。」と思わず言ってしまいました。

生活がかかっていましたから、本当は要らなくないのですが、それでも返したいと思ったくらいです。

これはよくある出来事で、管理職あるあるなのですが、ではこんな時、どうしたら少しでも自分の心を健やかに保てるでしょうか?

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心理学には「境界線(バウンダリー)」という言葉があります。

これは自分と他人の間にある物理的・心理的な区別のことです。

ひとことで言ってしまうと「私の気持ちは私のもの。あなたの気持ちはあなたのもの。」ということなのですが、私はよく「国境」を例えに出します。

人はみんなそれぞれ自分の王国を持っていて、そこでは自分が王様で、国ですからそこには法律があり、国境があります。

よその国に入るときは許可を得て、その国の法律を守って入れてもらうし、自分の国に人を入れるときも同じで、勝手に国境を越えられたり、勝手に何かを持って行ったり、勝手に法律を変更されたら、国が滅びてしまいます。

そういう国境にも等しい境界線があいまいになると、人の気持ちや人の立場ばかりを優先して、自分の気持ちがわからなくなってしまったり、逆にみんなが自分の気持ちや立場を優先してくれないと、自分では生きていけないような気になってしまったりします。

それは一時的にうまくいくことはあっても、いずれ苦しくなって、長くは続かないのです。

私はその初めての管理職のときはうまくできなくて、どちらの意見もわかるから、どっちつかずになって間に立っておろおろし、みんなを納得させることにも失敗し、上司からも叱責され、という経験をしましたが、あの頃は境界線をあいまいにしていることが多かったなと思います。

その心の深いところには、「私はだめな人間だ」という否定的な思い込みがあって、「自分より他人が正しい」とか、「私はみんなに嫌われるに決まってる」とか、「自分の意見なんかどうせ通らない」と思っていたんですね。

こういう自己否定的な観念を手放していって、「私はこう思うので、こうします。賛同してくれる人がいたら大変嬉しいです。」と言えるようになると、同じ板挟みでも苦しみの重さが違ってきます。

これは仕事だけではなくて、人が生きていって、自分の心の国を豊かに保つためにとても大切なことだと思います。

お互いの国境を大切にして、あなたの国が豊かに栄えますように。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

離婚やハードワークによる鬱、親の介護など、さまざまな経験をしてから心理学を学び、【心が変われば、いつからでも人生は変えられる】ことを体験した。企業の人事や人材サービス会社など、人に関わる仕事歴30年。その人らしさを大切にし、新しい希望を見出すためのサポートをモットーにしている。