次男が小学1年生の家庭訪問の日、私の頭は真っ白になりました。先生から「知恵遅れでは」と言われた瞬間、何も考えられなくなったのです。「息子さんはまじめに授業を受けてくれているのですが、指示を出したときに、それを理解し動き始めるまでに時間がかかる。補足説明をしないと理解できないことが多い」とのことでした。
二つ上の長男のときは、こんな場面でも「よくできる子ですね」と言われてきたので、当然同じような言葉を聞けるのだろうと思っていた私だったので先生が帰った瞬間、涙が止まりませんでした。
小学3年生のときの先生からは「息子さんにとって漢字は、私たち大人からすると韓国語の文字のような感覚で、教科書からノートに書き写す前に忘れてしまっている状態です」と指摘されました。この言葉も私にとって大きなショックでした。
私自身の見解ではありますが、今から15年程前のことですので、当時「発達障害」や「学習障害」という言葉はあまり使われていなかったように思いますが、発達障害、学習障害または、そのグレーゾーンだったのではないかなと振り返ります。
親としての焦りと葛藤
最初、私は次男が長男と同じように、他の子と同じように、勉強ができるように必死になりました。先生の話の中に「まじめに勉強しているのに、ついていけなくなると勉強自体を嫌いになってしまう可能性がある」とのことだったので「今のままじゃダメだ!もっと頑張らなくちゃ!」という気持ちに駆り立てられました。小学2年の夏休みには、漢字一文字について100回書いて覚えさせようと試みました。息子も「俺、頑張る!」と意気込んで取り組みましたが、確認テストでは思うような結果が出ませんでした。先が見えず不安や焦りが膨らんでいきました。そして、それがめいいっぱい膨らんで、時々爆発するかのように、異常なテンションで怒ってしまうこともありました。「こんなお母さんだから、この子は苦労をしている。本当にかわいそう」と、感じないようにしていた気持ちを痛いほど感じていました。
子どもの欠点を個性と受け入れる転機
私はある時期から、息子を「みんなと同じに」することをやめようと思いました。人の話を理解するまでに時間がかかることも、漢字が書けないことも、この子の個性だと受け入れていこうと思いました。
「漢字なんて書けなくていい!携帯電話もあるんだ、書けなければ調べればいい!ただ、漢字がある程度読めるようになればいい」と思いました。そこで早速、漢字カードを作って読む練習を始めました。始めてみると、これまた想像以上に苦戦しました。例えば10個の漢字カードを何周やっても、1つ覚えるか覚えないかの状態でした。
ただ、この漢字カードをやり始めてみたら、なかなか秀逸な読み間違えに出会えたのです。あるときは「菜」という漢字を見て「なたねがらのたね」と読みました。この瞬間、私は「惜しい!これは菜の花の【な】だよ!でも、あなたの読み方のほうがステキ!」と答えていました。この子の個性を受け止めることができた瞬間だったように感じます。
学校の評価だけで評価しない
私は個性を受け止めたときに決めました。学校の評価だけでこの子を評価しないと。この子には、通知表には表せない魅力がたくさんあるのです。出来ることがたくさんあるのです。笑顔がすごくいいし、何か欲しいものを買ってもらいたいときのプレゼンは素晴らしいし、友達を作る名人です。また、冬に肩を揉んでほしいと頼むと、冷たい手で肩が冷えないように、ストーブで自分の手を温めてから肩を揉んでくれるとびきりの優しさも持っています。ここには書ききれないくらいたくさんの素晴らしさがあって、学校の物差しでは測れないものがあるのです。それに気づいたとき「この子はきっと大丈夫!」そんな安心感が広がっていくようでした。
終わりに
今、この次男がどうしているかというと、本人が希望していたMARCHの大学を卒業後、就職をしています。あの頃の私に、この未来は全く想像もつきませんでした。本当に本人の努力の賜物だと思います。
就職を機に、ひとり暮らしを始めたのですが、家を出て行く日に駅まで送っていくと、車を降りるときに私の顔を見て「23年くらい、ありがとう」という言葉を伝えてくれました。家でも夫と私にお礼の言葉とバームクーヘンを贈ってくれたので、完全に油断していた私は咄嗟に「お母さんこそ、ありがとう。とっても楽しかったよ」こんな言葉しか出てきませんでした。嬉しい気持ちと寂しい気持ちがぐちゃぐちゃになってパニック状態でした。ひとりになった車の中で、涙とこれまでの思い出が次から次へと溢れてきました。「楽しかったってなんだよ!あなたならどこへ行っても大丈夫!いつでも帰っておいでね!くらい言えばよかった」すっかり大人になった息子の背中を見送りながら、言えなかった言葉を心の中で伝えました。
最近では、発達障害、学習障害、グレーゾーンなど色々な言葉が飛び交う中、お子さんを一番身近で見ているお母さんがこの問題を背負いすぎてしまっていることが多いのかな?と私の経験も含め感じています。大切な我が子のことだからこそ、責任を感じすぎたり、自分の育て方や接し方を責めてしまうこともあるかと思います。
でも、子育ては長丁場です。お子さんもですが、お母さん、お父さんも無理をせず、周囲の助けを借りることも大切です。社会全体で子どもたちの個性を尊重し、温かく見守っていきたいですね。
カウンセラーにも気軽にお話ししにきてくださいね。お待ちしております。
私のこの経験が少しでもお役に立てたら幸いです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
来週は、池尾千里カウンセラーがお送りします。どうぞお楽しみにしてくださいね!