相手が大事にしているものを、私も大事に扱う

ある日の夕方。
私は公園のベンチでアイスコーヒーを飲みながらぼーっとしていると、小学生ぐらいの女の子に声をかけられました。

「あの… すみません。初対面でこんな事をお聞きして申し訳ないのですが、紫色の匂い玉が入った小さい瓶が落ちていませんでしたか?」

小さいのに随分しっかりした、礼儀正しい子だなと思いました。

彼女の話を詳しく聞いてみると、お菓子屋さんで100円ガチャをしたら期間限定のレアガチャが当たり、しかもそれがずっと欲しかった紫色の匂い玉だったらしいのです。
それなのに家に帰ったらその小瓶が鞄の中にないことに気づき、公園に探しにきたとのことでした。

それは凹むなと思いつつ、「なんて可愛い話なの!」と私は心の中で悶絶。

「そっか、それはびっくりするよね。ショックだよね。」と声をかけると、すごくしょんぼりしながら彼女は「はい」と頷き、お母さんには話したけど自分の責任だと言われたと話してくれました。

その姿を見て、私は再び「なんて可愛いんだ!」と心の中で悶絶。

それから「どこにいっちゃったんだろうね〜」なんて話しながら、30分ほど公園内を探しました。
探している時に、彼女が過去に家族旅行でお気に入りの時計もなくしたことを話してくれました。
彼女にしたら災難再び!という状況だったようです。
でも残念ながら、匂い玉の小瓶は見つかりませんでした。

彼女が家に帰った後、私はまたベンチに座り、ぼーっとしながら彼女との楽しくて可愛い時間を振り返りました。
小さな女の子が私に心を開いてくれたこと、頼ってくれたことがすごく嬉しかったなと思い、心がじんわり温かくなりました。

私は彼女とお話ししている時にすごく気をつけていたことがありました。
それは「匂い玉の価値」についての取り扱いです。

大人の私からすると、レアガチャを当てたことの希少性はリアルに想像しやすい。
でも「100円の匂い玉」となると途端に、頭ではわかるものの今の私には希少価値は感じなくなります。
だって100円だし。匂い玉だし。
それなら香水を買いたいとか思ってしまう。
要するに、私のこの価値観では彼女の大事な匂い玉(宝物)が「価値のないもの」になってしまうのです。
このままでは私は彼女を傷つけてしまう。
それだけは絶対にしたくない。
だから彼女にとっての100円の価値、匂い玉の価値を想像し、宝物として扱うように努力をしました。
今思うと、その努力が結果として良かったのかもしれません。
それもまた嬉しかったです。

そんなことを夕暮れの公園のベンチで一人考えていました。

「相手が大事にしているものを、私も大事に扱う」

これは大人同士でも大事なのではないでしょうか。
むしろ大人同士こそ、信頼関係を築く上でとても大事なのではないでしょうか。

私たちは大人になっていくと、どうしても自分のものさしで判断してしまいやすくなります。
どうしても自分の考えが正しいと思いやすくなってしまう。
それは自分の人生経験や成功体験で裏付けられ、自分の解釈の正当性が高いように感じてしまうからなのかもしれません。
だから気をつけてないと、悪気なく自分の価値観を押し付けてしまうことがあります。

大人にとっての100円の価値と小学生にとっての100円の価値が違うように、大人同士でもそれぞれ価値が違うものは沢山ありますよね。

例えば、最新の洋服が好きな人と古着が好きな人では洋服の価値を感じるポイントが違うし、現金派の人と電子マネー派の人は同じお金でも価値を感じるポイントが違う。
それが良いとか悪いとかではなく、どちらかが正しいか正しくないかではなく、私たちはただそれぞれ違う価値観を持っているということなのだと思います。

だから自分にはその価値がわからなくても、相手の価値観を尊重することが大事なんだと思うのです。
でも、言うが易く行うは難し。
価値がわからなくても相手を尊重するのって本当に難しいですよね。

例えば100円のガチャで当てた匂い玉の価値がわからないと、「100円ならまたガチャすればいいじゃん」とか、「匂い玉なんか別にいらないでしょ」とかつい言ってしまいたくなるし、悩みを相談してくれた相手の深刻さがわからないと「気にしすぎだよ」とか、「考えすぎだよ」とかつい言ってしまいたくなる。

その言ってしまいたくなる衝動を抑えて、「そうだったんだね」と受け入れることが相手を尊重するということなのかもしれません。
そしてそれが相手を大事にするということに繋がるのかもしれません。

今回 出会った女の子のおかげで、私は大事なことを改めて教えてもらえました。

たぶん私が彼女の価値観を尊重して接したように、私も今まで気づかないところで沢山の人に尊重されてきたんだと思います。
そこに気づいた時、最近その視点をすっかり忘れていたなと反省しました。
これも彼女のおかげです。
本当に可愛くて尊い経験をさせてもらいました。

もしかしたらもう会うことはないかもしれないけど、どうかあの子の大事な匂い玉が見つかっていますように。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

コミュニケーションの問題の改善、クライアントが本来持っている才能を引き出すことを得意とする。心理分析や解説など、説明のわかりやすさには定評がある。明るく親しみやすい雰囲気と、論理的な思考をあわせ持つため、幅広い世代(10代〜70代)に支持され、LGBTの方からの相談も多い。