仕事上での依存と自立

私たちの心は依存から自立、さらには相互依存へと成長していきます。
ビジネスシーンでも、心の成長プロセスの視点をとりいれることで、自分が望む働き方に向かうヒントを知ることができます。

一般的には、依存とは周りの人や物に頼ること、そして、自立とは他の力を借りずに自力で物事をすすめることを意味します。
日常生活のさまざまな場面で、私たちは自立側か依存側のどちらかの立場に立つことが多いです。

家族関係では、一般的には親が自立、子が依存の関係から始まります。
親は子どもの欲求を叶えて、お世話をします。子どもは、親に生活や身の安全を守ってもらいます。
やがて、成長するにつれて、自分でできることが増えて、誰かを助ける場面もでてきます。
依存(誰かに頼っている状態)から、自立(自分の力で立ち、人に与えることができる状態)へと成長していくのです。
そして、大人同士になれば、困った時は助け合ったり、お互いの幸せのために協力しあえるう関係になったりします(相互依存の状態)。

ビジネス上での関係性であれば、会社側が自立の立場、社員は依存の立場になります。
社内では、上司や先輩など責任者やリーダーを担う人が自立の立場、新人や後輩は依存の立場に入ります。
そして、サービスを提供するときには、自分は自立の立場に立ち、お客さまが依存の立場に入ります。
お客さまのできないことを助けたり、欲求を叶えることで、報酬をえるわけです。

会社に入ったばかり、転職したてころは、周りの上司や先輩に、仕事の進め方や職場でのルールを教えてもらいます。
右も左もわからないところで、サポートを受けることで安心して仕事に取り組めます。

このとき、依存側では、不安や恐れ、自信がないなどのネガティブな気持ちを感じやすかったりします。

例えば、私は新人のころ、作成した資料を上司に確認してもらったり、自分が納品したものをお客さまにチェックをしてもらうことが苦手でした。
ミスを指摘されたり、期待に応えられないことが怖くてたまりませんでした。
周りから文句を言われないように完璧主義に陥ったりもしました。
「上司からどう思われるのか」「お客さまにどう評価されるのか」相手の反応を過剰に気にしていたのです。
依存側にいると、自分よりも相手に意識が向きやすい状態になります。
相手の評価=自分の価値になってしまい、自分に自信がもてなくなってしまう場合もあります。

この依存の状態から先に進んでいくときは、自分がすべきことに注力すること、チャレンジすることが抜け道になります。
経験がなかったり、できるかどうか不安なところから、勇気を出して、一歩ずつ前に進んでいくことで、自信がついていきます。
自分なりに「これはできた」と実感することで、相手中心の意識から自分に意識が戻っていきます。

そうして、スキルを磨いて実績を重ねていくことが、仕事での成果にもつながっていくでしょう。
昇進の機会があったり、周りに頼られる場面が増えるかもしれません。
依存から自立へとキャリア上での立ち位置もシフトしていくわけです。

よく「経営者は孤独だ」などと言われたりしますが、自立側では「孤立」が問題になったりします。
自立を強めた結果、困っていても頼ることができず、孤独感を強めてしまうのです。
また、自分で努力した結果、「こうした方が効率的なのに」「こうすべきだ」という自分のやり方が出てきます。
そうすると、他の人のやり方とどちらが正しいか戦ってしまったりします。
相手と衝突することで、人間関係に亀裂がうまれてしまうことがあります。

私自身も、リーダーという立ち位置になったとき、「自分がやったほうが早い」と仕事を任せられず、1人で抱え込んでパンクした経験があります。
自立しすぎた結果、メンバーが頼りなく見えて、「誰にも頼れない」「誰もわかってくれるわけがない」と周りの人と距離をおいてしまったのです。

当時の私は「頼りたい」「助けてほしい」という依存心を否定していたので、周りの人の「頼りたい」気持ちを受け入れられませんでした。
リーダーの立場では、メンバーの相談に乗り、サポートをすることも仕事の一つですが、「甘えないで」「これくらい自分でなんとかしなさい」と相手を突き放したくなりました。
このように、自立心が強まった心の状態では、信頼関係を築いて、チームで目的を達成するのも難しくなってしまいます。

成長プロセスでは、自立の先には「相互依存」という関係性があります。
自分の得意なところで貢献し、苦手なところは周りに頼るという関係性です。
つまり、自分だけで頑張るのではなく、誰かに頼り、「相手の力を活かしてもらう」ことが必要になります。
これまで自力でなんとかしようとしてきた方にとっては、「これ以上は無理」「助けてほしい」と、相手に委ねることは勇気がいることかもしれません。

依存の段階のときは、どのように自立していくかを学び、自立の段階のときは、自立を手放し依存を取り入れることが、次のステップにすすむヒントになるんですね。

相互依存では、「自分」ではなく、「私たち」「みんな」でという発想になります。
お互いを信頼して、協力する分だけ、楽に進めるようになっていきます。

以前、経営者の相談に乗っているコンサルタントの方とお話をすることがありました。
その業界で長年の経験を積んだ経営者層を相手に、会社の将来を左右するような問題に取り組むことは、とてもプレッシャーのかかる仕事ではないですかと聞いたことがありました。

そのとき、その方は、こんなことを話してくれました。
「自力で答えを出そうとしていたときは苦しかった。でも、ビジネスは正解はない世界。上司が正解を知っているわけではない。お客さまが正解を持っているわけでもない。答えを知っていて、それができるんだったら、わざわざ相談なんてしてこないからね。だから、一緒により良いものを考えるという意識でやるっている。」と話していました。

言葉の中で、「一緒に考える」という部分が、相互依存のものの見方なのだろうと思ったものでした。

ビジネスシーンでも、私たちは依存、自立、相互依存という成長していきます。
この成長プロセスで、自分はいまどのポイントにいるのかという視点で見つめなおしてみると、さらに成長できる鍵が見つかるかもしれません。

この記事を書いたカウンセラー

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人間関係、自己嫌悪、家族関係、仕事などの相談を主に扱う。じっくりと話を聴きながら、そのままの自分でもっと楽に自由になれる道筋を一緒に見出していくサポートを行う。 お客さまの個性やペースを尊重し、いつでも味方でいることを大切にしており、「話していて安心できる」「心の深いところをわかってもらえた」と好評である。