大人になってやってきた反抗期

私は子供の頃、反抗期といったものがなく、いわゆる「いい子」で育ちました。
両親が自営業をしていたので、子供ながらに「親に迷惑や負担をかけてはならない」と思っていたのだと思います。
母のしつけが厳しく、門限も早く、外泊は禁止されていましたし、弟なら許されることでも「女の子だから」という理由で私が許してもらえないこともありましたが、私が反抗的な態度をとることはありませんでした。
時間とお金の制約があるのは「親に養ってもらっている身だから仕方がない」と思っていましたし、「親に迷惑や負担をかけてはならない」という気持ちがあるだけでなく、「親には敵わない」と思っていたから反抗する気も起きなかったのでしょう。
我慢していることはいっぱいあったと思いますが、どうしてもやりたいことは「やってもいい?」と許しをこい、「ダメ」と言われたら諦めて凹んでいました。

中学生の頃、聖飢魔IIというヘヴィメタルバンドを好きになったのですが、今思えば聖飢魔IIの曲や世界観に触れることで、私の我慢やストレスを発散していたのだと思います。
アイドルに夢中になる年頃に聖飢魔IIという異色のバンドを好きになったことは両親に驚かれましたし、「この子は大丈夫だろうか?」と心配されていたかもしれませんが、否定されなかったどころか、テレビに聖飢魔IIが映れば「ほら、あんたが好きなバンドが出てるよ!」と教えてくれるほど私が聖飢魔IIを好きなのを認めてくれいたので、それも反抗期がなかった要因の一つなのかもしれません。

大学は実家から通っていましたが、門限は最終電車まで、外泊はサークル旅行と学園祭の最終日のみ許されていて、飲み会でみんなが楽しく盛り上がっている最中に帰らねばならなかったのはすごく残念でした。
それでも親に反抗はしませんでしたが、反抗する代わりに「早く家を出て、自分で稼いで、お金も時間も自由になりたい」という気持ちは膨らんでいきました。

そんな気持ちもあって、大学卒業後、就職を機に念願の一人暮らしを始めたのです。
親は一人暮らしに反対はしませんでしたが、母の心配は増え、電話のたびに私を心配する言葉を並べていました。
「朝は寝坊せずに起きてる?」
「ちゃんと食事してる?」
「男の人に簡単に気を許したらダメだよ!」
「お金はちゃんと貯めておくんだよ。」
「車の運転は気をつけるんだよ。」
などなど、心配ばかりする母に次第にイライラするようになってきました。
金銭的にも自立し、ちゃんと生活しているのに、いつまでも子供扱いされているように感じてすごく嫌でした。
大人として認められていないような感じも嫌でしたが、今思えば、母に心配をかけている状態が「親に迷惑や負担をかけてはならない」というこれまでの思いに反していたので、大人になっても親に心配をかけている罪悪感があったのだと思います。

そんな罪悪感を隠すようにイライラするのを母のせいにし、私は母に対して反抗期の子供のような態度をとるようにいなっていきました。
母から電話がかかって来ても、すごく低い声のトーンで「何?仕事中にそんなことで電話してこないでよ。」と冷たくあしらったり、母のつまらない冗談に「そんなこと言うからイライラするんだって!」といきなりキレたりしていました。
自分でも母に対してひどい態度をとっていると思いましたが、母と関わるとついイラッとしてしまうのです。
私にできるのは自分から電話しないことと、実家に帰省しても母と関わるのは避け、滞在時間を極力短くすることでした。

母は私がキレると「ごめんね。」と謝るのですが、その謝罪が私の罪悪感を刺激し、余計にイライラしましたね…
「次こそは母に優しくしよう」と思っていても、イライラしてしまう自分が腹ただしくもあり、母と関わるだけで気持ちが沈んでいました。
母といる時間、母と関わる時間を全く楽しめなくなり、大人の反抗期は長いこと続いたのでした。

30代、40代と歳を重ねるにつれ、少しは優しく接することも増えてきましたが、罪悪感を埋めるためにやっていたので、申し訳ない気持ちの方が強く、母といて心から楽しいと思えない自分がまだいました。

そんな中、父が亡くなって母ひとりになり、母が次第に年老いていく姿を見て、やっと「お母さんを大事にしていこう」と本気で思えました。
帰省して母と会う回数や一緒に食事をする回数を増やし、母が喜ぶことを考えるようになりました。
そうやって関わりを増やす中で、やはりイラッとすることもたまにありますが、「これがお母さんなんだからしょうがないよね」とそのままの母を少しずつ受け入れられるようになってきたように感じます。
私自身、自分の罪悪感に目を向けるのではなく、母を大事にすることに意識を向け、母をどうやって喜ばせるかを考えるようになったことで、わだかまりなく素直に母と接することができるようになったのだと思います。
大人になってからの私の長い長い反抗期は、こうして終わりを告げたのでした。

あれだけ母と関わることで気持ちが重くなっていたのに、こんな風に母と穏やかに過ごす時間を過ごせるようになり、自分でも驚いています。
母との時間があとどれくらい残されているかはわかりませんが、母をいっぱい喜ばせて、母との時間を楽しみ、慈しみたいと思います。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

大学卒業後、地元企業に就職し、デザイン・経理・総務・秘書・営業事務等の業務を経験。不惑にしてカウンセラーを目指すために転職。離婚も含めた人生経験をベースに、楽になる物事の受け止め方を提案する。生き方やライフワーク、メンタルヘルス、パートナーシップ全般の問題を得意とする。