あなたの本当に欲しいものに気づいていますか?
こんばんは
神戸メンタルサービスの平です。
彼女の母親は酒乱でした。
お酒に溺れる人の多くはなんらかの心の痛みを抱えており、その痛み止めとしてお酒を飲むとはよくいわれることです。心の痛みの原因を解消するのではなく、とりあえずその痛みから逃げるためにたくさんお酒を飲んでしまうのですね。
その後、彼女の両親は離婚し、小学生だった彼女は父親の実家で、父と祖父母に育てられることとなりました。
祖父母はやさしく、よく面倒を見てくれました。が、授業参観日や運動会の日、クラスのみんなのところに来てくれるのはおかあさんなのですが、彼女のところはおばあちゃんであるわけです。
そんなこともあって、彼女は長い間、「私は母親から捨てられたんだ」と、母親をあてにせずに生きてきました。
そんな彼女が大人になって就職すると、会社ではある女性のボスが彼女の育成担当としてつくこととなりました。
なかなか面倒見の良いボスで、仕事終わりには飲みに誘ってくれたり、週末も「うちにごはんを食べにおいでよ」と言ってくれたりします。
が、彼女はそれがとてもいやでした。仕事以外のおつきあいはしたくなかったのです。
にもかかわらず、ボスはなにかと彼女の面倒を見たがります。それは、彼女にとって、まるで忘れていたおかあさんが、いまごろになってきゅうに現れたように感じられたのです。
当然、彼女の中には「ほうっておいてよ! なにをいまさら!」という思いが出てきます。
もちろん、彼女も大人ですから「ボスとおかあさんは違う」と認識はしているのですが、心理学でいうところの“投影”が彼女の心を苦しめます。
つまり、会社の女性のボスに、自分の母親を映し出してしまうのです。
そんな思いを抱え、彼女は私どものカウンセリングを受けにやってきたわけです。
私は彼女にいやーーなことを伝えました。
「きみは“おかあさんが私を捨てた”と思っているようだけど、本当のところはご本人に事情を聴いてみないとわからないよね。
いずれにしても、いま、100%いえるのは、おかあさんに捨てられたときみが思うことで、きみのほうがおかあさんを捨てたということだね。
そして、今回、きみは女性ボスを拒絶することでまた嫌われようとしているけれど、腹が立つことにヤツはその手には乗らない。ほんと、ウザイよね」
彼女も自分のしていることに気づいたのか、笑いはじめました。
「ほんとうだわ。私、早く嫌ってくれって思ってる(笑)」
子どものころから彼女は、友人たちが母親の話をしたり、母親に甘えたりしているのを見ると、「バカじゃないの、おかあさんなんかいらないのに」と自分に言い聞かせるようにしていました。
ほんとうに欲しいものはそのぐらい強く拒絶しないと、生きていられなかったわけです。
そして、それだけ一生懸命、距離をおいてきたものなので、その一線を越えてだれかが入ってこようとすると、当然ながら、ものすごいアレルギー反応が起こるわけです。
「きみはどうも、“私にはだれも近づかせない、だれも私に近づいてほしくない、おかあさん、あなた以外はね”と、おかあさんを求めているようですよ」
私が言うと、彼女は泣き崩れてしまいました。
その後、彼女は戸籍謄本を取り寄せ、そこから母親の現住所をつきとめ、再会を果たしました。
「こんなアル中の私があなたのそばにいても、迷惑しかかけない」
母親の愛情ゆえ、会いたい思いを飲み込み、距離をおいていたということを彼女は知ります。
その母親にとっては、彼女が会いにきてくれたのは奇跡のような出来事であり、うれしくてただ号泣するばかりだったとのこと。
そして、この再開を機に、女性ボスに関する彼女の投影も薄らいでいったのです。
来週の恋愛心理学もお楽しみに!!