ビジネスと心理学の深い関係

(1)ビジネスと心理学

ビジネスと心理学は異なる分野であるかのように見えますが、実際には非常に密接に関連しています。
現代のビジネスシーンでは、単なる数字や戦略だけではなく、人間の心理や行動を理解することが、成功の鍵を握っています。

心理学はビジネスのさまざまな側面に影響を及ぼし、意思決定や人間関係の構築、マーケティング戦略などにおいて重要な役割を果たしています。
例えば交渉の場面では、相手の心理を理解することが成功を大きく左右します。
どのような内容の提案をどのタイミングで行うか、どのような見せ方で行うかは全て相手の心へのアプローチなのです。
昔、交渉に長けている先輩に「交渉している相手が自分の上司に説明できる材料を提供することが交渉をうまくまとめる秘訣だ」と教わったことがあります。
当時、私は「なるほど」と思いましたが、その後、実はそれはセカンドステップだということに気がつきました。
ファーストステップは、交渉に先立ち信頼関係を醸成することです。
そのためには相手への共感力を高め、相手の価値観や思考傾向、優先事項を理解することではないかと思います。
そしてそれは、相手に興味を持つことにほかなりません。
その信頼関係の醸成があってこそ、先のセカンドステップの考え方が活きてくるのではないでしょうか。
こうしたアプローチは、単なるビジネス上のやり取りを超えた、相手とのより深い関係を築くことになります。

ところで、私達は言葉によるコミュニケーションが、コミュニケーションの主役と考えていないでしょうか?
実は意外と言葉のみがコミュニケーションに与える力は弱く、その影響度は10%も無いという実験結果があります。
ノンバーバルコミュニケーション(非言語的コミュニケーション)、例えば表情や仕草、声のトーンといった要素が相まって総合力でコミュニケーションが成立するのです。
身近な例で考えてみると、グルメレポーターがいかにも美味しくなさそうな表情で「美味しいです」と言っていても「美味しい」と言う言葉は伝わって来ませんね。
言葉により伝えることも大切ではありますが、それ以上にノンバーバルコミュニケーションも相手へのとても大切な伝達手段なのです。

このように、心理学の視点を取り入れることで、ビジネスにおける交渉をより効果的に進めることが可能になります。

(2)投影の法則とその影響

心理学には「投影の法則」と呼ばれる重要な概念があります。
この法則は、「私たちが認知するもの全て、感じるもの全ては私たちの心の中を映し出したものである」というものです。
例えば、何かうれしいことがあった日には、道端に咲く花が可憐に見えるかもしれません。
しかし辛い状況を頑張っている時には、同じ道端に咲く花を見ても「こんな道端で頑張っているなぁ」と感じるかもしれません。
あるいは、過去に嫌な思いをさせられた人にとてもよく似た上司が赴任してきたら「きっとこの人は私を傷つけるかもしれない」と身構えるかもしれません。
この法則は、私たち以外のモノや状況に対する捉え方や感情が、私たちの過去の経験や今の状況により左右されることを意味しています。
私たちは勝手に、好きなように物事を見たり感じたりしている、ということですね。

(3)心のブロックとビジネスの成功

私たちの心は、大きく顕在意識と無意識に分かれています。
顕在意識は自分で認識できる意識ですが、無意識は自分では気づかない部分です。
実際、無意識は私たちの意識の90%以上を占めていると言われており、私たちの行動や選択に大きな影響を与えています。
この無意識の部分に潜む感情や信念が、私たちの行動にどのように影響を及ぼすかを理解することは、ビジネスにおいても重要です。

たとえば、ビジネスにおいて「成功したい」と思っていても、無意識の中で「自分はそれにふさわしくない」と感じている場合、行動が制限されることがあります。
これは「心のリミッター」が働くためです。
この心のリミッターは、私たちが自分自身に課している制限や、社会的な期待、過去の失敗から生まれる自分への信頼の無さや恐れなどによって形成されます。

具体的な例を挙げてみましょう。
ある人が新たなビジネスチャンスを掴みかけているとします。
そのような時、心の中に成功への期待と同時に、失敗への恐れが心の中で葛藤を生むことがあります。
その人は「成功したい」と願いってはいるのですが、無意識から「自分には無理かもしれない」「向いていないかもしれない」という思いが芽生え、その処し方に迷いを生じさせます。
そのような場合、多くの人は自分の考える客観性をもって成功の確率とリスクを読もうとします。
この「自分が考える客観性」の中に実は多くの罠が潜んでいます。
例えば同じ様な状況で実行に踏み切って失敗した経験がある人は、より慎重な「自分が考える客観性」を用いようとします。
違う内容であっても過去の経験を投影してしまうのですね。
その結果として慎重な決断を下し、機会を逃してしまうことになりかねません。

これら無意識的な心のリミッターはビジネスシーンのみならず、日常生活のあらゆる場面で繰り返し現れるのが特徴です。
パターン化しているのですね。
何かに新たにチャレンジするときには必ず迷いが生じ、行動を制限するような考えが浮かぶ場合は、自分が持っている何らかの心のリミッターが働いている可能性が非常に高いと言えます。
そのリミッターの原因は単に過去に失敗した経験にとどまらず、自身の生育環境であったり、誰かから何気なく言われた一言であったり、自分が何かのきっかけで決めたルールであったり、あるいは自分には価値が無いという自己概念であったりします。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。