もうダメだとわかっているし、やり直したいわけではないけれども、なぜか残しておきたくなるのです。なぜなのでしょうか?
この心理学講座では4回にわたり、執着のメカニズムと手放す準備についてお届けします。今回は第2回目です。
執着は痛み止めになる
◆あの恋を手放すのが難しい理由その2:感じたくない感情があるから
たとえば、半年前に失恋をした女性がいるとします。「ごめん、他に好きな人が出来たから、別れてくれ」と5年も付き合った彼に言われたとします。
でも、彼女は別れたくない。「え?あれだけ好きだって言ってくれたじゃない?あの言葉は嘘だったの?」と半年経ったいまでも、彼を思って泣いています。
これは実際のカウンセリングでもとても多いケースです。彼を手放すのが難しいことにはちゃんと理由があります。
失恋をしたら、いちばん最初に直面しなければいけない感情は「さみしさ」です。だって、彼と5年お付き合いしていたのだとしたら、5年そばにいてくれた人がいなくなるのだから、どう考えたってさみしくなりますよね。
そばにいてくれた人がいなくなるだけではなく、毎週のようにデートをしていた人がいなくなるし、私の話を聞いてくれた人がいなくなるし、私を褒めてくれる人がいなくなるし、おはようとおやすみのラインを送ってくれる人がいなくなるし、私を抱きしめてくれる人がいなくなるし、どう考えたってさみしいのです。
なによりさみしいのは、私のことを大好きだと言ってくれる人がいなくなること。恋人は「世界でたったひとり、私のことを世界でいちばん好きだと言ってくれる特別な人」ですから、それを失うことがあまりにも大きいわけです。
◆彼を失い、そこに残るのは…
彼を失い、そこに残るのは、ひとりぼっちの自分。このひとりぼっちになったときに感じる感情が、あまりにもつらくて耐え難いのです。
ひとりぼっちの私が感じるのは、さみしさ、みじめさ、こどくなどの感情です。それを感じたくないので「別れたくない」「離れないで」「戻ってきて」としがみついてしまうわけです。
執着は「痛み止め」にもなります。別れるということは物理的にはひとりになるわけですが、執着をしていれば心理的にはひとりにならずに済みます。心のなかでは、まだその人と一緒にいられるからです。
別れた恋人のことを何年も思い続けるというケースもあります。心のなかにある部屋に別れた恋人がまだいるので、新しい恋人を招き入れることができないのです。
◆感じたくない感情とは?
さきほど感じたくない感情は「さみしさ」だといいましたが、あくまでもひとつの例です。感じたくない感情は人によって違います。たとえば、
・あんなにやさしい彼にふられてしまうなんて、私はなんてダメなのだろう。私はもう誰からも愛されず、ずっとひとりなのではないか。
・彼のことが大好きだった。彼以上好きになれる人には、もう出会えないのではないか。この先、結婚もできないのではないか。
・彼が好きでいてくれたから、私は自分を好きでいられた。でも、彼からも嫌われ、もう誰も私を好きになってくれないのではないか。
感じたくない感情のすべては「怖れ」です。執着しているときには必ずなんらかの怖れの感情があって、それを感じるのが嫌なときにしがみつきます。
◆失恋をしたときには、感じたくない感情でいっぱい
「さみしい、ひとりぼっち、価値がない、愛されない」
この感情はあまりにも痛すぎて、感じたくない感情です。
すると、この感情を感じないために、いろいろなことをします。執着は痛み止めにもなると言ったことを覚えていますか?
彼のSNSをこっそりとチェックする。彼からもらった昔のメールを読み直す。ふたりで撮った写真を懐かしむ。ネットで復縁する方法を調べる。メールを送りたいなと考える。どんなメールを送れば返事がもらえるのかなと悩む。いつ頃送れば返事が来る確率が高くなるか占いに電話をしてみる。
心が別れという「現実」を受け入れられない分だけ、いろいろなことをします。心は今になくて、過去への後悔や未来への不安をさまよい続けるのです。
◆失恋は悲しみの海に溺れているようなもの
執着を「とらわれ」と表現することがありますが、心が囚われて離れられなくなるのですね。だけれども、この囚われを手放してしまうと、心が悲しみの海になってしまう。それがつらくて、仕方がないのです。
失恋は悲しみの海に溺れているようなものですが、この大きな海をひとりで泳ぐのには無理があります。傷ついたあなたを乗せるボートが必要です。そのボートはお友達や家族かもしれませんし、カウンセラーかもしれません。
悲しみの気持ちは誰かに受け止めてもらい、聞いてもらうのが良いのです。失恋は繋がりが切れたことによる悲しみですから、繋がりによって癒されていきます。誰にも頼らずに繋がりが切れたまま、ひとりで耐えていると立ち直りに時間がかかります。
失恋をしたことにより、初めてカウンセリングをお使いになる方も少なくありません。ぜひご利用くださいませ。
(続)