「どうしてうちの子が」
我が子は発達障がいの診断を受けています。発達障がいとは、生まれつき脳の偏りがある障害です。その我が子が先月、小学校の卒業式を迎えました。
障がいの診断を受けたとき「未来はあるのだろうか」と思いました。でも、未来はあったのです。もちろん、たくさん悩み、涙した日々でした。でも、少しずつこどもは自分のペースで成長しました。振り返ると、宝石のように輝く楽しく幸せな瞬間の数々だったと気付かされるのです
卒業を迎え、思い出す入学前
6年間、親子で一緒に歩んできました。そして先月、こどもは小学校を卒業しました。
入学前、私は不安でいっぱいでした。
「こどもは教室にいられるのだろうか。じっとすわっていられるのか。学校を飛び出してしまわないか」
先生とも話し合い、学校側は、門に鍵をかけることまで検討してくださったそうです。
「障がいがある」と告げられたあの日
2歳児検診で「発達の遅れがある」と指摘されました。医師から診断を受けたとき、
「この子の未来に、幸せなんてあるのだろうか」
未来への希望が、音を立てて崩れ落ちました。
「なぜ、うちの子が? この子はどうなってしまうんだろう」
涙が止まりませんでした。
それでも、抱きしめた小さな体のぬくもりは、昨日までと何も変わりません。帰り道の風景は、同じなのにまるで違う世界のように感じました。
「ごめんね。普通に産んであげられなくて。妊娠中、くよくよしていたのがよくなかったのかな。若い頃の生活がよくなかったのかな」
何度も自分を責め、心の中でこどもに謝り続けました。何をしなくても、涙が落ちます。
でも、そんな絶望の日々、今までと変わらず元気で楽しそうな我が子の笑顔を見ていて
「我が子を産んだのは、私。母である私が、いつまでも悩み苦しんだとしたら。いったい誰がこの子に『私のもとに産まれてきてくれて、ありがとう』と、心から言えるの?」
と、ふと気づきました。
私が言わなくて、誰が言うのでしょう。私はこの子に
「産まれてきてくれてありがとう」
と、言い続けたいと思ったのです。腹をくくりました。
泣いてばかりは、もういい。この子が安心して楽しく歩んでいける道を、一緒に探さなくては。ようやく私は、絶望の淵から立ち上がれたのです。
平坦ではない、小学校生活
入学式の日。小さな背中に、大きなランドセルを背負いました。まっすぐ前をみつめる横顔は、なんだか誇らしく見えました。
けれど、周りの子がすぐにできることが、こどもにはできないのです。黒板の字を写すのに時間がかかる。先生の話が頭に入らない。
何度も何度も練習しても、うまくいかないことも多いのです。
「どうしてできないの? なんで? 他の子はできているのに」
そんな思いが心のどこかで消えませんでした。
〇比べることに、なんの意味があるのだろう
周りの子とたくさん比べて、苦しみました。でも、ある日
「比べるの、もうやめよう。比べて成長を促せるならまだしも、苦しくなるだけならなら、比べる意味がない」
と、決めました。
この子は、誰かと競うためにうまれてきたわけではありません。この子は、この子のペースで生きている。だったら、親である私が焦らなくてもいい。ゆっくりでいいのです。時間がかかってもいい。我が子が「できた!」と、笑う瞬間を、一緒に喜びたい。
そう思えたとき、肩の力が抜けて、世界は少し優しく見えました。
〇「普通」というものさしに縛られていたのは、私
私が焦っていたのは、世間の「普通」に縛られていたからでした。実は、私自身も「ミスが多い」「じっとしているのが苦手」など発達障がいの特性を持っています。その私自身が一番苦しかった「普通」というものさしで、こどもを縛ろうとしていたのです。
こどもの成長のスピードは、たしかに遅いかもしれません。でも、そのぶん小さな一歩が「こんなにも嬉しく、幸せで、尊く感じられるのだ!」と、はじめて知りました。
そのとき、
「改めて、産まれてきてくれてありがとう。出会えて、よかった」
と、心から思ったものでした。
卒業式
卒業式を迎え、こどもの名前が呼ばれました。「はい!」と、元気よく返事をして卒業証書を受け取った我が子。じっと待つのが苦手なのに、長い式の中よく頑張りました。しっかり座っていたのです。
どんなに大変でも、「できること」が増えていきます。その姿が、ただただ誇らしいのです。
〇この子が教えてくれたのは
こどもは、私たち親を悩ませるために産まれてきたのではありません。こどもの「できること」が増えるたびに「すごいね!」と、心から思える幸せ。我が子が教えてくれたのは、何気なく通り過ぎる瞬間が、宝石だということです。
これからも、悩むことはあると思います。周囲の理解を求めること、将来への不安。時には、心が折れそうになることもあるかもしれません。
でも、大丈夫なのだと思っています。今までも、乗り越えられたように。これからもこどもと一緒にゆっくり、一歩ずつ進んで行けばいいのだと思います。
障がいのあるお子さんを育てるパパママへ
障がいのあるお子さんを育てるパパママ、本当にお疲れ様です。きっと、何度も先生と話し合い、悩んで、試行錯誤してきましたよね。
どうしたらこの子にとっていい環境なのか? どうサポートすれば、一番のびるのか?
叱ったらいいのか? 励ましたらいいのか? たくさんの葛藤があったと思います。まだ、お子さんが小さければ、遠い未来と思うかもしれません。でも、いつかは卒業を迎えることができるのだと思います。
〇こどもの「できるようになった」という喜びは、すべてのパパママの喜び
障がいのある子どもを育てるということは「どう成長するかわからない」不安はつきものです。だからこそ、「できるようになった!」という発見は、驚きと喜びでいっぱいです。
でも、それは障がいの有無に関わらないのかもしれません。なぜなら、すべてのこどもは「どう成長するかわからない」からです。すべてのパパママにとって、こどもの「こんなことができるようになった!」は、なによりの喜びなのかもしれません。
同じように卒業を迎えた親御さん、お互い、本当に一生懸命頑張りました。
いつかこの子が、自分の足で力強く歩き出すその日まで。私たちもゆっくり、私たちのペースで、共に歩んで行きませんか?
みなさんの子育ての、なにかのお役に立てたら嬉しいです。
来週は、小川のりこカウンセラーです。
どうぞお楽しみに。