怒りが目の前の誰かにぶつけられている時。
一見すると、目の前の誰かとの怒りと思うものですが、実は、全く別のところに本当に怒っていることがあり、それから気持ちをそらすために、目の前の誰かへの怒りを使ってしまっている場合があります。
こうした場合は、本当の怒りに気がつくことで、目の前の誰かへの怒りが減っていくこともあるのです。
両親への怒りと思っていたのは、実は、夫婦関係に起因する自分への怒りだった。
今回はそんなお話です。
前回は、実家の両親への怒りが急に噴き出した時の心理と対処法について書かせていただきました。
今回は、その続きです。
こうしたケースでは、「本当に怒っている理由が他にある」場合があります。
その場合は、両親への怒りの下に隠れている怒りがあり、その隠れているものに気がつかないと、両親への怒りがなくならない、ことになります。
架空の話ですが、この事例の方がカウンセリングを受けていったとしたら、どんな展開があるのか、その続きを見ていきましょう。
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カウンセラーさんから、本当に怒っている理由が他にもあるのではないか、と指摘を受けました。
「両親に怒っていたということは本当のことですが、今になって急に怒りが爆発するにはきっかけがあったんじゃないですか?」と言われましたよね。
その時、はっとしました。
実は私、半年前まで不倫をしていたんです。
短い間でしたが、そんなことをするのは人生で始めてで・・・
最初はよかったけれど、段々苦しくなっていって、どうしようかと思っていたら、急に相手が音信不通になって。
それで、この不倫は終わったんですけれど、ほっとした気持ちもありますが、それより、そんな仕打ちをする相手にものすごく腹が立って。
毎日、そのことを思い出すと、怒りが収まらなくて、でも、そんなこと誰にも言えなくて、ずっと悶々とした日々を過ごしていたんです。
どうして私がこんな目に合わなければいけないの?という怒りが収まらなくて。
そのうち、段々と父母のことが思い出されてきて、あの人たちも、私をひどい目に合わせたんだ、と思えてきて・・・
それで、その思いを父母にぶつけてしまったんだと気がつきました。
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両親への怒り。
それは本当の気持ちです。
しかしながら、その下にあるのが、不倫相手への怒り。
このケースでは、そんなお話しの展開になっていますが、実は、ここにあるのも「不倫相手への怒り」ではありません。
「不倫をしてしまった自分への怒り」なんですね。
ここには、強くて大きな罪悪感があります。
「私はなんてことをしてしまったんだ」という思いがあった場合、その罪悪感が大きければ大きいほど、その思いを感じることができなくなります。
感じてしまったら、その苦しみに押しつぶされてしまうから。
そのため、別の何かを怒ることで、気持ちをそらさないといけなくなります。
もちろん、無意識でやっているのですが、自覚していないだけに、別の何かや誰かへの怒りが収まらなくなってしまう場合もあるのです。
この事例で言えば、両親への怒りが収まらないというものですが、怒っても怒っても収まらない。
理由は、本当の怒りの元が別にあるからです。
両親への怒りは本当です。
でも、実は、本当に怒っていたのは、別のところにあった。
しかも、それはやっぱり「自分への怒り」なんです。
自分を責めて責めて、責め抜いて。
その自己攻撃でボロボロになった先に、やむなく他の誰かを怒ることで、自分を責める気持ちから抜け出したい。
そんな無意識の心の働きだったとしたら。
私は、両親への怒りのぶつけ方を肯定するつもりも、不倫を正当化するつもりも、どちらもありません。
ただ、やり方はまずかったかもしれない。でも、そこには、やはり「仕方がない理由」があった、という視点によって、やっと自分をどれだけ責めていたか、どれだけ自分に怒っていたか、がわかることもあるのです。
本当に怒っていること。それは自己攻撃であること。
そこに気がつくことは、こうした怒りを減らすきっかけになります。
ここまで心を整理してくると、本当のテーマに気づいていけます。
この女性はどうして不倫してしまったのでしょう。
「夫とは、まあまあうまくやれている」と語っていた女性の本当のテーマは、夫婦問題。
夫との間にある寂しさや、コミュニケーション不足など、自分を理解してくれない夫への怒り。それを表に出せないことが苦しみとなり、そんな自分を責めてしまっていた。
そうした夫婦のテーマにようやく気がつけた。
怒りから始まった心の整理が、夫婦が持っている課題に気がつき、そこに取り組んでいくきっかけにしていくこともあるのです。