僕は食べる事が大好きです。美味しい物を食べたい、色々なものを食べてみ
たい、と思います。グルメというよりは、興味がある、といった感じでしょ
うか。あちこちに出かけてはそこの名物料理を食べてみたり、地元の珍しい
物を食べてみたり、旬の味を楽しんだり、あるいは僕の常識を覆すような調
理法の料理を食べてみたり・・・と色々します。
でも、楽しい食事をするための要素って、美味しい物を食べるだけで得られ
るものでしょうか?僕はそうではないと思います。もちろん、美味しい食べ
物を口にできるだけでも随分と幸福な感じは味わえるんですが、僕の場合、
ただそれだけでは十分に楽しい食事にはなりません。僕は、「誰かと一緒に
食べる」事の方が楽しい食事のより重要な要素ではないかと思っています。
気の合った仲間や友人などとワイワイ話ながら食べる食事のなんと美味しい
事でしょうか。もちろん、それに加えて料理が美味しければ、何も言う事は
ありません。「もう最高!天にも昇る」という感じになってしまいます。
僕は仕事であちこち出かける事が多く、ホテルによく泊まるのですが、昔は
出張先での仕事が終わって、コンビニエンスストアでお弁当とビールを買っ
てホテルへ帰り、買ったお弁当のおかずを肴にテレビを見ながらビールを飲
む、なんてことをよくやっていました。
今ではコンビニエンスストアのお弁当も様々な工夫がなされて美味しくなり
ましたが、まぁ、当時のお弁当は決してまずくはないけれども、美味しくも
ないという感じでした。それに加えて狭い空間で独りぼっちの食事。話す相
手はテレビのブラウン管。笑う相手もテレビのブラウン管。僕にとっては最
悪のシチュエーションでの食事でした。何だか寂しかったですね。そして侘
びしかったですね。楽しい食事に必要な2つの要素「美味しい料理」「誰か
と一緒」が全くない状態ですからね。
そんな事を何度も何度も繰り返しているうちに、やがてホテルでのコンビニ
のお弁当は止める事にして、街で食事をするようになりました。地方へ行け
ば、その地方の美味しい料理を出してくれる小料理屋さんなどもあります。
今まで培った経験でおいしそうなお店を嗅ぎ分けて、ちょっぴり不安を抱き
つつ暖簾をくぐります。
そこで地元のお酒をちびりちびりと飲みながら、地元の色々な味を楽しむ・
・・。でも、これも殆どの場合、余り楽しい食事ではないんですね。確かに、
地元の新鮮な素材を使った料理は美味しいんですが、やっぱり「誰かと一緒」
という楽しさがないんです。時にカウンター越しに店のご主人や女将さんと
話に花が咲く事もありますが、何か、分かち合っている感覚がないんですね。
一緒に食べている訳じゃないですからね。楽しさ、というのは薄い感じがし
ます。
先日、あるカウンセラー仲間と食事をしながら話をしていて、実はとても驚
いた事がありました。家庭での食事の話です。
そのカウンセラー曰く「朝食と土日の亭主の食事を用意しない主婦が結構い
る。子供の食事は用意するけど」とのことでした。
僕は「えっ、そうなの?」という感じになりました。
確かに様々なクライアントさんからご家庭の色々なご様子をお伺いし、その
ような方もいらっしゃいますが、それが結構多いとは僕には驚きでした。
もちろん、僕が育った時代とは異なり、共働きで頑張っておられる方々も多
く、食事の用意まで手が回らないのかも知れません。遠距離通勤が増えて、
ご主人が早朝に家を出られる方もいらっしゃるでしょう。また、必ず女性が
食事の準備をしなければならないわけでもありません。でも、土日もとなる
と・・・ちょっと寂しい感じがしました。休日、一緒に食事しないのかなぁ
・・・と。
思えば、僕にとって、家での食事は一家団欒のシンボルでした。父が仕事で
遅くなって食事を一緒に出来ない時には何か寂しい感じがしたものです。一
緒にご飯を食べる・・・それは「同じ釜の飯を食う」という諺もあるぐらい、
連帯感や親密感のシンボルだと思っています。美味しい物を分かち合う、そ
して食卓での様々なコミュニケーション、僕が食べ物に興味を抱くのは、こ
の親密感が心地よいからなのかも知れません。だから、僕には料理の美味し
さよりも、「誰かと一緒」が重要なんでしょうね。
食事で思い出すテレビドラマがあります。向田邦子原作の「寺内貫太郎一家」
という番組です。3代続く石屋一家の物語で、小林亜星扮するところの頑固
親父、樹木希林扮するところの「ジュリ〜」と叫ぶお婆さん(沢田研次ファ
ンという設定です)、良妻賢母役の加藤治子、長男役の西条秀樹、お手伝い
さん役の浅田美代子などなど多彩な顔ぶれで演じられたユニークなドラマで
した。
この一家が揉めるシーンが必ずあって、それは一家が勢揃いする食事のシー
ンでした。一家揃って、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のよう
に並び、テレビカメラに向かってみんなで食事をとっています。ときに長男
役の西条秀樹が頑固親父役の小林亜星に反発して2人は取っ組み合いのケン
カを始めます。ご飯は宙を舞い、味噌汁はひっくり返り、おかずは飛び散る。
そんな中で、もくもくとご飯を食べ続けるお婆さん役の樹木希林。
楽しい食事もこうなると台無しですが、でも、そんなケンカもコミュニケー
ションの一つの方法なんですね。ケンカの後、頑固親父は小料理屋へ行って
一人酒を飲みながら寂しさを漂わせる。もう少しいいコミュニケーションの
方法もあったかも知れませんが・・・。
心の触れ合う楽しい食事、大切にしたいひとときだと思います。
さて、今日は誰と食事をしようかな〜っと。
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