僕の母親は80歳です。
少し前までは、友達とあちこち旅行に出かけたり、僕と一緒に海外旅行を楽
しんだりしていました。
しかし、2年ぐらい前に頸椎の手術をし、その時に発見された狭心症の為に
心臓カテーテル術でステントを入れ、その為に飲んだ薬の副作用で小腸出血
を起こし・・・というような塩梅で、病院に長い間入ってからは、急に記憶
力が低下してきました。
そしてその後も、腰椎の手術を受け、カテーテルで再度狭心症の治療をし、
最近は急に気分が悪いと言い出したかと思って病院に連れて行くと、腸閉塞
でそのまま入院しました。
入院する度に、母の記憶力は低下していきます。
母は、朝、ご飯を食べたかどうかはわかるのですが、薬を飲んだかどうか忘
れてしまう事がしばしばです。
薬を飲んだかどうか一人でゴミ箱の中を覗いたり、その痕跡を探しています。
また、僕に同じ事を繰り返し何度も何度も尋ねるのは当たり前という状態に
なっています。
例えば「明日、朝8時に出発する」と僕が言ったとします。
その1分後、母は「朝、何時に出るの?」と僕に訊いてきます。
それを繰り返します。
それまで大好きで得意だった料理にしても、「ハンバーグって、何入れるん
だっけ?」と尋ねられる有様です。「タマネギと卵と、パン粉」と答えると、
「そうだった、そうだった」とハンバーグを作り始めます。そして覚えてい
る事はしっかりと覚えているようで、ハンバーグの真ん中をへこませて火の
通りをよくする事は忘れません。
手術を受ける前までは、快活で、それこそ年齢よりは10歳ぐらいは若く見
られる感じの母でしたので、僕も、その頃にはまさかこんな感じになるとは
毛頭思ってもいませんでした。
でも、今はこの状態が現実なのです。
親に対して、僕達は結構色々な期待をしてしまいがちです。
こんな事ぐらいわかっているだろう、こんな事ぐらいしてくれるだろう、こ
んな風にしてくれるに違いない・・・・。
僕達の心の中には、僕達を育ててくれたり、叱ってくれたりした強い親の像
が棲み着いているのですね。
しかし、親が老いていくにつれて、実はそんな期待はどんどん裏切られてい
くのです。それと同時に、親も一人の人間だったのだなぁと本当に気付かせ
てくれる感じがします。
そして、その強い親の像が壊れていくにつれて、本当に色々やってくれてい
たこと、本当に色々考えてくれていた事がわかってくるような気がします。
当たり前と思っていた事が、実は親の深い愛情だったのだなぁとわかってく
る気がします。
親が老いていくのは少し寂しい感じもしますが、それを受け入れる事が自然
の流れなのでしょうね。
改めて、親に感謝する今日この頃です。
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