「This is it!」と言うのは、マイケル・ジャクソンのツアー
のテーマでした。
あんまり英語が得意じゃないので、日本語訳の「これが最後だ!」が私は
少し納得できなくて、変色した懐かしい英和辞書を紐解き、この辞書を使っ
ていた頃に比べ、各段に目の調整力が落ちているなぁと感じつつ、「it」
の項を引きます。
Itには結構、悩んだなぁ。日本語にない概念だもの。なんて思いながら。
すると、最後の方に、あった!そのまんまの例文が!
「This is it. Let’s get started.」
おお、これよ、これ!
この場合のitは、「大切な瞬間(俗語)」とあり、例文の訳は
「さあ今(がそのとき)だ、始めよう」とありました。
うん、これが私にはわかりやすい。
大切なとき、今この瞬間。マイケルは、どこかで、「自分の時間」を知っ
ていたのかも知れないなぁ。
さて。
私の世代(マイケルも同世代!)の多くは、父や母であったり、もちろん
娘・息子でもあります。誰しも親がいて、自分の存在がある、とってもあた
り前のこと。親(もしくは親代わりの誰か)が育ててくれたから、今の自分
がいて、いろんな環境に生きているのです。
息子たちがそろそろ、独り立ちをしてもいい年齢なのですが、幸か不幸か
まだ一緒にいます。昔私が立てた計画を知っているかのように、一緒にいる
時間を大切にしようと思っているようなのです。
昔の私が立てた計画、というのは、どこかで書いたと思うのですが、彼ら
が私なしでも生きていけるくらいの年齢になったら、私はもう「ここ」に居
なくてもいいな、と考えていて、もちろん、具体的な計画は一切ないのです
が、むしろ「その先」をまったく考えていなかった、ことに、改めて気づい
ているこの頃です。
本当に、驚くくらい、先のことを何も考えていなかった。計画と言うより
無計画、の方が正しいくらい。
そんなことを考え出したのは、今をさかのぼること十数年前。結婚生活に
疲れ果て、とにもかくにも今の生き方を変えなきゃ!と思っていた頃。私の
中では、万策尽きた状態。前向きになんて、とても考えられなかった、あの
頃。
そんな自分に課した課題は、まず、息子たちがちゃんと成人するまで見届
けること。そして、社会に出て行けるようにすること。それぞれが、好きな
ことを見つけられること。
ん・・・!?
こんなところに、潜在的な原因があるなんて!!
息子たちは二人とも、高校を中退しています。教育現場で仕事をしていた
私から見ると、「理由がわからない」と教師が首をひねるタイプ、だと思い
ます。これと言って、見当たる原因が、その時はなく、何とか卒業できるく
らいの学力だってなかったわけではない、と思っているんです。
二人とも、取り敢えず二十歳を越え、それなりの成長をし、「あの頃」考
えていたことを、年を経た現在の自分の目から見て、話してくれる機会も増
えました。
私の耳に痛いことも少なからず、なのですが、時代の趨勢もあり、かつて
の自分たちに求められたことが、全く当たり前にはこなせない。その場も与
えられないことだって多い。
私が親に望まれてきて、叶えられたこと、叶えられなかったこと(こっち
の方がダントツ多いな)が、全く時代にマッチしていない。そう、私たち親
の方も、先行きが見えないのは息子世代と何ら変わりがないのは同じ、だと
つくづく思うのです。それは、子世代に関してだけでなく、自分自身のこと
についても。
息子たちは、時間をかけて悩んだり、時には逃げていたりするように私に
は見えますが、私が昔立てた計画を、邪魔しているのかもしれない、とても
無意識的に。
だとすれば、私があの計画を完全に手放せたときに、彼らの上にも答えが
降ってくるのかな。ということは、私の中にまだ、あの計画が潜在している
のかもしれない・・・?
いずれにしろ、この不確かな、時代。
耳にするニュースも、どこに根を下ろしているのだかわからない時勢を教
えている気がします。
そんな時、相次いで聞いた悲報が、キヨシロー、マイケル・ジャクソンの
死去。いずれも、平和や愛を、歌ってきた人たち。
くしくも、というべきなのか、やはり、というべきなのか、コンサートツ
アーを控えての逝去。どこかに、自分の来し道を想い、なすべきことを見据
えてのことだったか、と思わずにいられませんが、年齢的にはまだまだ、と
いう年頃なので、無念だったか、というと、そうでもないような気もするの
です。
思えば、今がそのときだ(This is it!!)と感じたとしても、動くことがい
つもできるわけではなく、何かしら理由を見つけ、できない自分の言い訳に
してきたことも少なくありません。私の場合は、ですが。
そうやな、もうとっくに捨てたと思っていたあの計画、人生五十年計画を
本格的に捨てるとき、まさにそれが今なんやなぁ。
いつもいつもを、「さあ、やるぞ!」というにはもはやパワー不足の年代
を自認できるようになりました、少し前なら無理をしてでも、と思ってきた
のだけれど、明らかな体力の衰えは否めず。
だからこそ、瞬間瞬間を大切にしたい。
まさに、~This is it!~なんです。
~~For you and for me and the entire human race.~~
あなたのために、私のために、そしてすべての人のために。
マイケルの曲(社会情勢で不遇な目に遭った曲でもありますが)、Heal
The World(※) の一節です。
よりよい明日、よりよい場所を作ろう。
世界を癒そう、あなたのために、 私のために。
すべての人のために。
そんな内容が歌の中にちりばめられているんです。
私も、世界中を癒したい。誰にも訪れる、消えていくその日まで。
自分も周りも大切にするためにめぐってきた、「この瞬間」をこんな想
いで生きていこう、と改めて思うのでした。
かくして、私の「計画」は失敗し、今度こそ幕を引きます。息子たちが
自分のためにちゃんと歩き出すのはもう、時間の問題だもの。
まずは一歩、私が進みますか。
※マイケル・ジャクソン“Heal the world”より引用
中村ともみのプロフィールへ>>>