説得よりも、相手が言ってほしいことを言う

「相手を説得しなければ!」と感じることは、たくさんあります。部下が突然、担当から外れたいと言ったとき。
顧客から、無理な値段交渉が持ち込まれたとき。

「今、それを言わないでくれよ」と思います。
そして、「なんとか説得して、この場面を切り抜けなければ」と焦ります。

そうすると、いかに自分が困っているのかを相手に話したくもなりますし、そんなことを突然言い出すのは、ルール違反だと相手を責めたくもなります。
「あなたが言っていることは、常識から外れていて、無茶なことを言っているのですよ」ということを伝えて、相手を説得しようするのです。

その方法は、怒ることであったり、泣きつくことであったり、理屈や理論を盾に戦うことであったりします。
要するに「あなたと、私の意見は違います。あなたの意見を通すと私は困ってしまうことになるので、私の意見を優先させるべきですよ」ということになり、相手よりも自分の意見を優先させようとすることになります。

こんなとき、実は説得というのは、あまりよい方法ではないのです。

人は説得されるのを嫌います。
もしも、最初の意見から何かを変えるのだとしても、それは説得されたからではなく、自分が納得したうえの決断でありたいのです。

「やれっ!」と言われれば、「いやだっ!」となるのですが、自分から「やろうかな」と思えれば、勝手にそうするのです。

「相手を説得しなければ!」と感じたら、そんな時こそ、相手の話をよく聞いてみましょう。
どうして担当から外してほしいのか?
いったい何があって、そう思ったのか?
どんな不満を抱えているのか?

「そんなことを言っていてはいけない」「それは社会人としてルールに反する」などと相手を批判することなく、ただよく聞くのです。
相手の話を聞くことによって、相手が訴えたい本当の気持ちが理解できてきます。

担当から外れたいという部下は、もしかしたら「自分では力不足である」と感じて失敗したくないと思っているのかもしれません。
無理な値段交渉をしてくる顧客は、その上司からやはり無理難題を押し付けられていて、冷や汗をかきながら値段交渉を持ち込んでいるのかもしれません。

人が何かを伝えるとき、それがビジネス上であったとしても、相手に理解してもらいたい「気持ち」があるのです。

その気持ちを理解し、相手が言ってほしいだろう言葉を伝えてあげることで、相手は「わかってもらえた」と思えます。
相手が言ってほしい言葉を伝えてあげてから、自分が言いたいことを言えば、相手は聞いてくれるのです。

「君には力があるよ。万が一失敗しても、責任は私がとる。もう少し一緒に頑張ってくれないか」
「強い意志をお持ちなんですね。それだけのプレッシャーに耐えるなんて本当に強い人だと尊敬します。あなたのお力になれればいいのですが、私にはその力がありません。これ以上の値段交渉に応じることが私にはできないのです」

相手のわかってもらいたい気持ちを理解し、言ってほしいと思っている言葉を伝え、そのうえで自分の意見を言うのです。
少々面倒くさい手順になるかもしれませんが、最初に自分の意見を言ってしまうと、相手は受け入れてもらえたとは思えませんので、あなたの意見に拒絶反応を示します。
でも、自分の話を聞いてくれて、気持ちを理解してもらえたと感じれば、あなたの意見を聞こうとしてくれるのです。

説得してくる相手には、拒絶反応を示しても、理解しようとしてくれる相手の話しには、耳を傾けてくれるのです。
例え相手の意見を変えることができなかったとしても、その後の関係性は悪くはなりません。
相手の話しに耳を傾けずに、自分の意見を頭ごなしに主張してしまえば、相手との間にいらぬしこりを残すことになってしまいます。

説得するのではなく、相手の話しに耳を傾け、相手が言ってほしいことを言う。
ぜひ試してみてください。
やってみたぶんだけ、「説得しなければ!」と感じる場面が減ってきます。

—–

この記事を書いたカウンセラー

About Author

恋愛や結婚、浮気や離婚など男女関係、対人関係やビジネス関係、家族関係や子育て、子供の反抗期、子離れ、親離れ問題など幅広いジャンルを得意とし、お客様からの支持が厚い。 女性ならではの視点と優しさ、母としての厳しさと懐の深さのあるカウンセリングが好評である。PHP研究所より3冊出版。