同じことをする

みなさんは、このような状況に遭遇したことはないでしょうか。「上司が変わったら、前の上司とやり方が違うので、慣れるのに苦労した」

異動していない部下は同じ仕事を続けているだけなのに、上司が方針や指導方法を変更したために、かえってやりづらくなった、ということが起きる場合があります。

前の上司と今の上司は別人なので、当然個性も違いますから、ある程度の変化は当然のことといえるかもしれません。

しかし、今の上司が、こういう理由でやり方を変えたとしたら、あまりいい結果を生まないかもしれません。それは、

「あえて前の上司のやり方を否定する」

世の中には、このような理由で仕事のやり方を変える上司もいます。そして、怖ろしいのは、

「自分のやり方が絶対に正しい」と本気で思っているケースすらある

ということです。

もし私が新しい上司なら、仕事のやり方を変更するにしても、次のようなプロセスを踏むと思います。

①現状の把握
②改善点がないかどうかの検討
③改善点があった場合に、もし改善したとしたら、どのような影響が出るかの確認
④影響を確認したうえで、改善をするかしないかを決定

私なら、まず現状の把握を行います。部下がどのような仕事をしているのか、質と量双方の面から把握します。

ただ、会社は毎日業務が流れていきますから、現状の把握と言っても仕事を止めるわけにはいきませんので、まずは、

前の上司と「同じことをする」

ことになります。

そして、私自身の現状把握が終わったら、改善が必要だと思えば、②~④のプロセスを経て、改善を実施していきます。

さて、それでは、「あえて前の上司のやり方を否定する」上司は、なぜそうしてしまうのでしょうか。その理由の可能性として、次のような深層心理が隠れていることが挙げられます。

「前の上司と違うことをしないと、上司として存在している意味がない」

これは、良い言い方をすると、「部下の役に立ちたい」ということです。しかし、前の上司と同じようなやり方でも、部下の役に立つこともあり得ますよね。むしろ、同じやり方であれば、部下は、やりやすい場合も多いと思います。

しかし、「部下の役に立ちたい」を深層心理の表現に書き換えると、こうなります。

「自分は価値のないダメな人間なので、何か変化を起こして、独自性を出さなければ、部下にも会社にも認めてもらえないだろう」

そして、現状把握をすることなく、自分のやり方を押し付けてしまうのです。このとき、その上司は、「自分は価値のないダメな人間だ」というような無価値感といえるような感覚に、まず気づいていません。

もうひとつ、このような深層心理が隠れていることもあります。それは、

「自信がない」

というケースです。

自信がないけれども、素直であったとしたら、自信がないことを、自分のさらに上の役員などに相談したり、仲のいい管理職仲間に相談することもできるでしょう。

しかし、あまりにも自信がないと、自信がないことを認めることができずに、ひっくり返って、

「自分のやり方が絶対に正しい」

となってしまうことがあるのです。これは、無価値感と同様に、本人の意識では、自信がないことについて無自覚であることがあります。つまり、自分が正しいと本気で思っていることもあるのです。

逆に、自信がない場合は、こうなることもあります。

「前の上司と全く同じことをする」

人事異動がたまにあるような企業で働いたことがある方には分かっていただけると思いますが、前任者から仕事を引き継いだ時は、業務のやり方を見直す大きなチャンスなのです。

前任者が必ず非効率であるわけではありませんが、新任者は前任者とは違った個性を持っていますので、業務の無駄や非効率さに気づきやすいのです。

それなのに、自信がないために、保身的な、積極的ではない理由から、前任者と同じであることに固執してしまうことがあるのです。

つまり、「同じことをする」のが正解とは限りませんし、「違うことをする」のが正解であるとも限りません。本当の問題は、「役に立たなければダメだ」というような「無価値感」や、「自信のなさ」ということになります。

そして、今まで述べてきたとおり、「無価値感」や「自信のなさ」は、自分では気づいていないことも多いのです。

新任の管理職はもちろんのこと、担当業務が変わった一般の社員というような場合でも、人事異動などで仕事や部署が変わったときに、「無価値感」や「自信のなさ」が原因で、選択を誤っていないか、一度立ち止まってご自身の心を見つめ直してみるといいかもしれません。

そして、もし「無価値感」や「自信のなさ」に気づいたとしたら、逆に、この問題は半分クリアしたようなものだと思います。なぜなら、気づきさえすれば、誰かに相談するなどの対策ができるからです。

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この記事を書いたカウンセラー