書店を覗くと心をテーマにした書籍も数多く見られるようになりました。カウンセリングでお話をお聞きしていても、以前にも増して心理学に興味をお持ちの方が増えていると感じます。
いっぽう職場に目を移せば、そんな世の中の動きとは裏腹に、心のつながりがますます希薄になってきているように感じることはないでしょうか?
心の内面に関心が向かう反面、対人関係ではどこか心が遠ざけられているビジネスの現場。そんな環境で私たちはどのように顧客や同僚との心のつながりを育んでいけば良いのでしょう?
◎対人関係の成長イメージ
対人関係が育っていく、というと皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
右肩上がりにグングン関係が良くなっていくイメージでしょうか?それとも時に下り坂を繰り返しながらいくつもの勾配を繰り返す山登りのようなイメージでしょうか?
身体の成長というのは、どちらかといえば前者です。一定の期間はグングンと成長し、ある年齢を境に、体力も身体的な機能も緩やかに低下をしてきます。
いっぽう、対人関係というのは、必ずしも右肩上がりに関係性が良くなっていく、とは限らないもの。それ故に、「停滞している」と感じることや、「思うように変わっていない」と感じてしまうことも多いものです。
例えばあなたがセールスマンだったとして、信頼関係を構築していきたい顧客があったとします。
まず、あなたは持てる限りの知恵と戦略を使って顧客に近づき、あの手この手で攻略、とても良い関係を構築することができたとします。ところが、ある時、その顧客と突然疎遠になってしまいます。特段クレームをもらったり、関係が悪くなったというわけではないのに、なんだかこれまでのように付き合えない、心の距離を感じてしまう。
そんな時、あなたと顧客との間に何が起こっているのでしょうか?
◎心も慣れた環境が心地よい
「住めば都」といいますが、住み慣れた土地を離れて、新しい土地に引っ越すのは寂しいものです。そこがどんなに快適な場所であっても、しばらくは住み慣れた場所を懐かしく思い出したりすることもあります。
私たちの心にも、永く付き合ってきた、住み慣れた環境というのがあります。そして、人と人との心の距離感にも、そんな心地の良い距離感というのがあるのです。そして、対人関係が育っていく、ということはそれまで馴染んできた心の距離感が変わってくるということ。
そしてそんな馴染んできた心の距離感というのは、多くの場合私たちと両親との距離感と似通っていたりもします。
両親との距離感が近い人なら他者との距離感も近くなりやすいもの。顧客や同僚と親密な関係を築くことにも抵抗を感じることは少ないでしょう。いっぽう、親との関係があまり良好ではない、心の距離が遠いという場合、一定以上近づくと途端に嫌な感じがしたり居心地が悪くなったり。
新しい心の距離に慣れるまでは、知らず知らずのうちに慣れ親しんだもとの距離感に戻ろうと、せっかく近づいた相手とも距離を置きたくなる。という現象が起こることもあるわけです。
そんな時にはまず、私たちの心も慣れ親しんだ環境が心地よいのだ、だから今感じている抵抗は心の距離が近くなったから感じるものなのかもしれないな、と考えてみること。心の習性を理解しておくことが大切なのではないでしょうか。
・時間より、深さ
それでは、心と心の距離感も踏まえて、顧客や職場の同僚とよりよい対人関係を育んでいくにはどのくらいの時間が必要なのでしょう。
私自身が体験した実感でいうなら、よりよい対人関係を育むうえで大切なのは、関わる時間よりも回数と頻度です。
例えば、初対面の相手に顔と名前を覚えてもらうには、ひと月以内に3回以上顔を合わせると効果的です。また、ビジネス上の近しい関係を築くなら、それを3ヶ月以上継続することが欠かせません。
職場の同僚と信頼関係を育んでいくなら、1日3回は何気ないあいさつや会話を交わしたほうが良いし、3日に1回はランチやお茶を一緒に取ることをおすすめします。
長く時間を過ごして深まる関係ももちろんありますが、とりわけビジネス上の対人関係については、1回あたりの時間は短くても、関わった回数を増やしたほうがいいようです。
人との新しい距離感に慣れていくには、少しづつ心を馴染ませていく。そんな工夫が必要なのかもしれません。
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