今回は、モチベーションを高めるための自己効力感の高め方と目標設定についてお伝えします。○自己効力感
自己効力感(self-efficacy)とは、その人自身が様々な課題に対してどの程度成し遂げられると確信しているか(自己評価しているか)という感覚です。
社会心理学者のバンデューラ (Albert Bandura) は 、この自己効力感が高い人ほど、困難な状況においても諦めることなく努力して目標を達成していく傾向があると提唱しました。
ここで少し具体的に考えてみましょう。
例えば、100メートルを12秒以下で走れば、100万円をあげるという話があったとします。
もし、あなたの現在の実力が15秒であれば、チャレンジする気持ちになれるでしょうか?多くの人が「12秒なんて無理」と思うのではないでしょうか?
しかし、あなたの現在の実力が12秒05と、もう少しで12秒を切ることができそうであればどうでしょうか?
多くの人が「ひょっとしたら出来るかもしれない」と思うのではないでしょうか?
そしてチャレンジしてみようかなと思い、トレーニングをするなど、12秒を切るという目標達成のために努力をするのではないでしょうか?
このように、達成可能かどうかの自己評価、すなわち自己効力感が高いほど人は行動的になり、努力し、そして目標に向かって進むのです。
では、具体的に自己効力感を高めるにはどんな方法があるかというと、
(1)自身の成功体験
(2)他者の成功体験
(3)他者からの承認
などがあります。
(1)(3)については、いきなりハードルが高い目標を見るのではなく、また人と自分を比べるのではなく、自分の成長や自分の長所として捉えることがとても大切です。
例え「そんな事なんて・・・」と感じるような事柄でもです。
なぜならば、もし「そんな事なんて・・・」と思っている事自体が、自己否定の癖であり、その結果として自己効力感の低下を招いているからです。ところで、自己効力感は“自信”とも密接な関わりがあります。
自信というのは自分を信頼することですから、“自分はできる”という自己効力感とは双子の兄弟みたいなものですね。
自信は、具体的に“○○ができる”といった事柄もありますが、より広くは漠然とした、身体全体に通う力の泉、エネルギーのようなものです。更に言えば“○○ができなくてもOK”という感覚を伴った自己肯定のエネルギーであり、そして自分や周りへの信頼のエネルギーなのです。
自信を育むためには、今まで人生を生きるために身につけた「よい」「悪い」という硬直した判断基準やそれに起因する競争などを手放し、「1人の人として自分が存在する」という自然体で様々な出来事や他の人、あるいは自分自身と向き合う事が必要ではないかと思います。
○目標設定理論
目標設定理論とは、心理学者のロック (Edwin Locke) と レイサム (Gary Latham)が、モチベーションに及ぼす影響を自己効力感と目標達成という観点から調査研究に基づいて捉えた理論です。
この研究結果によれば、
(1)易しい目標に比べ、受け容れられた(合意した)難しい目標の方が努力の量が高まり、持続性がある。
(2)具体的な目標が人の意識を方向付け、どのように進めれば達成できるかの手法や手段を考えさせる。
という事が言えます。
(1)で重要なことは、真の意味でその目標が受け容れられている(受け容れている)事が大切です。
人間は誰しも“成長の欲求”を持っていますが、難易度の高い目標は努力や工夫が必要になり、達成感も得られて自己成長の欲求も満足される事からモチベーションが向上します。
ただし、余りにも困難すぎる目標は、先に述べた自己効力感が低下しますから、かえってモチベーションが下がる結果になります。
いかにして適切な困難さを持つ目標を設定できるかは、自分自身についての目標設定に関しては自分の本当の気持ちと向き合うこと、人の目標設定を管理職の立場で考える場合には、その人の自己効力感や能力などを総合して十分なコミュニケーションを取りながら行う必要があります。その為には、普段からその人を“見る”こと、コミュニケーションを取っておくことが大切ですね。なかなか難しいかも知れませんが・・・。
(2)は、例えば「この書類を出来る限り早く作って」とお願いする(目標を設定する)場合と、「この書類を午後5時までに作って」とお願いする場合を比較してみましょう。
前者は、目標が具体的でなく、曖昧でどう努力すればいいのかがわかりません。
一方、後者は午後5時という目標が明確ですから、午後5時までに書類を作り上げられるように工夫や努力を行います。そして書類ができあがった後には達成感が感じられて、自己効力感も高まります。
以上、3回にわたりモチベーションについてのお話をしてきました。
モチベーション関しては、心理学のみならず経営学などでも広く取りあげられているテーマで、多くの書籍も出版されています。
今回は、さわりの部分だけですので、興味を持たれた方は、ぜひそれらのより詳しい書籍をご覧いただければと思います。
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