自分のいる「場」は自分が作り出している~コミットメントを育む~

自分のいる「場」を「きれいにする」ということが心理的にどういう意味をもつかを考えてみたいと思います。

日本には、以前から、特に製造業の現場で、3S活動(今では5S、日本電産では6Sという)という自分がいる「場」を自主的にきれいにする活動が提唱されてきました。

3S活動とは、整理・整頓・清掃の3つのSを指し、5Sは、それに清潔と躾が加わり、6Sはさらに作法もスローガンに加えます。一見、付加価値を生まないように見える整理、整頓、清掃作業を徹底すると、工場の安全性、効率性の向上につながる、という経験則から発展してきた業務管理の手法と言われます。もともとモノ(製品、部品、道具、生産設備)の扱いが焦点だったのが、これを徹底しようとすると社員の意識改革が不可欠ということが理解されて、身の振り方(躾、作法)にも目が向けられたのだと思います。

2010年6月の日本電産の株主総会において、同社の6S活動について、永守社長は、「きれいじゃない工場で利益を上げているところがあったら教えてほしい」と、経験則を強調しつつ、「大切にする、ぞんざいにしないということが習慣化されることで、愛着がわく」ことが大事で、この活動はそのきっかけを作るためのものだ、と言っています。

曰く「基本的に人は好きになりたいし、好きになれないのは辛いのだ」と。自分のいる「場」をきれいに保つ努力をすることで、自分のいる「場」に愛着がわく。自分の働く「場」を好きになる。好きな「場」だからこそ、また大切にするし、一生懸命に働きたいと思う、そんな好循環を作り出すことが目的だと言うのです。

大事なのは、「(職場)環境」というのは、構成員全員が作り出しているものである、ということ、その「場」に関わる全ての人が、「場」に対する影響力をもっているという事実に対して、ひとりひとりがどれだけ自覚を持てるか、ということになります。

自分が関わる「人」や「場」、「事柄」に対する責任を自覚し、「人」、「場」、「事柄」の課題を「他人事」ではなく「自分事」として捉えることを「コミットメント」と言います。「コミットメント」は、何かに対して責任をもって全力で当たる、という心の「選択」です。

例えば、何かを「やる」と無条件に決めることで、「やらない」という選択が消えます。すると必然的に「どうやるのか」という次の課題が出てくるので、「やる」「やらない」「できる」「できない」の間で堂々巡りするようなジレンマから抜け出し、問題解決に一歩近づきます。

また、「コミットメント」がある時は、所属意識や、同じ「場」に関わる人たちとの仲間意識も強まりますから、孤軍奮闘しなければ、という疲弊感が薄らいで、問題と向き合う勇気や前向きに対処する意欲も出てきやすくなります。

とすれば、「働く人ひとりひとりの中に「場」への「コミットメント」をどう育むか、というところにこそリーダーの役割がありそうです。

そんなリーダーにとって、前述した永守社長の言葉にもあるように、「人は本来自分のいる『場』、自分が関わっている『人』を好きになりたいものなのだ。それが好きになれないときに辛いのだ」という認識は、忘れたくないものです。

人が「場」を乱すような言動をするときは「好きになれなくて辛い」と表現しているのだ、と受けとり、「何故、好きになれないのか」を聞く姿勢が求められていると考えてみてはどうでしょう。組織として対応できることには限界があるでしょうが、その人が「場」を好きになるためにその人自身に何ができるのか、をいっしょに考えていきたいものです。

「場」を乱すまでではなくとも、自己評価が低い人は、自分の言動が「場」に与える影響力に無自覚なため、「場」に貢献するという意識が希薄なこともあります。その人がいることへの感謝の気持ちや、その人がどう「場」にポジティブに貢献しているかを折りにふれてフィードバックすることで自覚を促すことができます。

人は、自分が好意をもたれている、と感じると好意をもちます。部下に好意をもってもらうには、まず「褒める」ことが効果的だとは知られていますが、「場」に愛着をもち、ますます「場」や仕事を「好き」になってもらい、ひとりひとりの「場」への影響力を自覚してもらうには、部下自身が関わり、世話をし、「役に立った」と感じられるような場面が日常的に欲しいのです。

人の心は一貫性を求めるものです。モノの整理整頓にとどまらず、振る舞いや話す内容まで「場」をきれいに保とうという意識を後押しすることが、組織のひとりひとりの「場」への影響力に対する自覚を高め、「場」への「コミットメント」を育み、ひいては仕事の質の向上にまでつながるとしたら、リーダーこそ、「神は細部に宿りたまふ」と肝に銘じて部下の言葉に耳を傾けたいものです。

—–

この記事を書いたカウンセラー

About Author

退会しました