投影の法則とは、「私達の見るもの、感じることの全ては、自分の心のフィルターを通している」というものです。
例えば、ホラー映画が大好きな人もいれば、ホラー映画なんて死んでも見たくないという人もいますね。ホラー映画という外から与えられる状況は同じですから、この感じ方の違いはその人の心内側にある何らかのフィルターによる事になります。
このように私達は、必ず自分の心のフィルターを通して自分の外の世界を見たり、感じたりします。
さて、この心のフィルターですが、本能的な部分を除いて、私達が生まれてから現在に至るまでに経験したり、感じたりした多くの出来事から形作られています。でもその存在にはなかなか気がつきにくいのですね。ただ何となくそう感じると思ってみたり、相手がそう感じさせると思ってみたりしています。それは、私達が考えてもなかなか気がつかない心の領域、潜在意識に隠れている場合が多いからです。
例えば、子供の頃お父さんは家庭の中で一番権威があって、怖い人だと感じてしたとします。そうすると、心のどこかに「男は怖い」とか「権威ある人は怖い」という感覚が残ります。この感覚が心のフィルターとなって、大人になってもその感覚を通して外の世界を見てしまう事になるのです。
その結果、例えば会社の中で権威と感じる男性上司に近づけなかったり、怒られるのが怖くて無理な仕事を頼まれてもすぐに引き受けてしまったりといった事が起こります。これは、その上司に怖いお父さんを投影している状態なのですね。お父さんに感じた怖れをその上司に映し出しているのです。本当はその上司はとても優しい人なのかもしれませんが、それとは全く関係ないのです。
上司に怖いお父さんを投影してしまうと、上司と部下の間に溝ができてしまいます。
上司からそんな部下を見ると、「俺、何か悪い事でもしたのかなぁ?」とか、「俺、嫌われているのかなぁ?」などと感じて、上司からもその部下に近づきにくくなりますね。ますます溝ができてしまう事になります。
これでは、仕事が上手くいかないばかりか、お互いにストレスを感じたり、場合によっては職場の雰囲気がとても悪くなってしまいますね。
では、どうすればこの状態が解決できるのでしょうか?
この例の部下の立場では、それが自分の投影である事に気がつくことです。
投影かどうかは、自分がその上司だけではなく、例えば、昔の上司、部活の先輩、夫、近所のおじさんなどに対して同じような感じ方のパターンを持っていないかチェックすると分かります。もし、同じような感じ方をしている人がいたら、それは上司に誰かを投影している可能性が非常に大きくなります。
そして、その最初の体験である原体験を探っていくと、多くの場合は親子関係にたどり着きます。そして、「ああ、お父さんに感じていたこの感覚が、上司をそんな風に感じさせているのだ」という様に気がつくのです。
これに気がついただけで上司に対する見方が変わってきます。でももう一歩。ちょっと勇気が要りますが、無理しない範囲で少しずつ上司に近づいてみる事です。
上司から見ると、今まであった溝を部下から埋めてくれた感覚になりますから、驚きとともに嬉しい気持ちになりますね。
次に、この例の(男性に限らず)上司の立場では、自分は何かと投影される立場にあるという事を理解しておく事です。人は、勝手に様々な投影をしますが、特に権威ある立場の人間にはそれが顕著に出てきます。なぜならば、私達が子供の頃に一番近い存在である両親が、私達にとって権威ある存在だったからで、親に対する様々な思いが映し出されるのです。
ちょっと極端かも知れませんが、「課長のくせにあんな事もできない」「部長のくせにあんなことしているのは許せない」「社長なんだからこうすべきだ」などと思われるのは日常茶飯事だと心得ておくことがとても大切です。
でも、私達は人間ですから完璧に何でもできるわけではありません。失敗もするし、出来ない事だって沢山あります。それはそれでベストを尽くせばOKなのです。
しかし、ここで先ほどの例のように「俺、何か悪い事でもしたのかなぁ?」とか、「俺、嫌われているのかなぁ?」と自分を責めて自信の無さに入ってしまうと、気持ちに余裕が無くなって部下を感情的に扱ったり、自分から部下との溝を広げてしまうことになります。
実は、この自分を責める気持ちも投影なのです。心のどこかで「自分は駄目だ」「自分は悪い」と感じていたり、「自分は嫌われる存在だ」と思っていると、相手が相手の都合でとった行動があたかも自分自身の責任であるような感じがしてしまいます。
この罠に陥らないためには、自分の痛みに入らないことです。これはなかなか難しい事かと思いますが、自分の痛みに入らないと決意する事で習慣づける事ができます。
さて、あなたは誰に何を投影しているでしょうか?
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