◇自分の居場所を求めて

私は長い間舞台役者をしていました。
学生の頃いじめがひどくて、自分を「友達」と思ってくれる人がいないと
感じていたから、社会に出て仲間を求めようとしたんですね。
別にお芝居でなくても、今の自分を隠せるものならなんでも良かったんです。
いじめられている自分。
嫌われ者の自分。
愛されない自分。
なさけない、プライドさえなくなってしまった自分。
そんな自分を隠して、別人として生きたい気持ちが強くなって、一般公募さ
れている役者募集に応募しました。
素の自分は相変わらずでした。
人にこころを開かず目を合わさず、関わろう
ともしませんでした。
だけどお芝居では話す言葉も決まっているし、動きも
決定されるから、お芝居は私にとって、一時ではあったけれど、リラックス
して人と関われる時間だったんです。
それに、いざお芝居が始まると、その役を持っている私は場面場面で必要と
され、それがとても嬉しかったんです。
そして本番。
自分の出番になると、お客さん皆が私を見てくれる。
そこにはいじめられてて嫌われ者だった私は存在しません。
しっかりとしたひとりの女性の役を背負った、私が演じている別の私が存在
して、その私の言葉をお客さんが固唾を飲んで見ている。
必要とされている私。
見られている私。
とても嬉しかったんです。
自分にとっての逃げ場が出来た。そう思って15年やってきました。
そんなに長い間やっているにも関わらず、私は一度たりとも、ひとつの劇団
に所属することはありませんでした。
なぜなら素で関わる人間関係は極端に怖いからでした。
ずっとフリーのままで、呼ばれたり、話が来れば応じるというやり方をとっ
ていました。
だから劇団員のひとりとしてお誘いがあったとしても、とても
嬉しいことなのに怖くていつも断るばかり。
仲間や友達が出来なくて当然ですよね。
社会に出ても同じでした。
18歳の頃に貿易会社の社員でしたが、ここでも社内いじめにあって、とても
情けない辞め方をしました。
以後同じところに長く働けず、派遣として長く
て2年。通常半年程度の仕事を転々としていました。
それでも私個人を必要としてくれる人が欲しくて、お芝居を続けながらも、
いろいろな勉強をし、資格を取りました。
何かひとつの自信もってやれるも
のが欲しくて・・・。
そんなことを繰り返すうち、お芝居が苦痛になってきたんです。
本番での拍手喝采やライトを浴びるのは嬉しかったのですが、それまでの練
習での人間関係に限界が出てきたんです。
苦痛で苦しくて、なのにこれをや
めたら、本当に誰にも必要とされなくなる・・・。そっちのほうが恐ろしく
て、すごいストレスを抱えながらもやり続けていました。
私は自分の居場所をずっとずっと求めていたんです。
安心できる場所。
必要とされる場所。
愛される場所。
いろんなことに挑戦して、頑張って頑張ってきました。
だけど、決して楽しんではいませんでした。
今、カウンセラーとしてたくさんの方とお話する中で、頑張ってきた人は本
当にたくさんいらっしゃいます。
とても一生懸命で、その生き方は全力疾走
に近いほどです。
居場所がないといわれる方も本当に多くおられます。
だけど、私が居場所がないからと一生懸命だったとき、そこに「楽しさ」は
全くありませんでした。
今現在いっぱいいっぱいに頑張ってらっしゃる方、頑張るのをやめて、
楽しみませんか?
私は頑張らずに楽しめるようになったとき、ようやく自分の居場所を見つけ
ることが出来たように思います。
必死だった自分。
決して止まることをしなかった自分。
みっともないこともたくさんしたけれど、それはすべて私の今を支えていま
す。現在は舞台への誘いがあっても全て断っています。
15年もやっていたわけですから、もちろん懐かしく思うし、また舞台に立ち
たいと考えることもありますが、今はカウンセラーとして人と関わることと、
私が関わりたい全ての人たちとの関係が私の居場所です。
何十年もかかってしまったけれど、ようやく私が手に入れることができた、
私の大切な宝物です。
小川のりこ

この記事を書いたカウンセラー

About Author

アルコール依存症の父からの虐待経験、学生時代のいじめから、恋愛依存、不倫や風俗を経て、自分を抑え付けるような結婚生活後、8年で離婚。その後自分に向き合い、今は穏やかに生きる。 過去のあらゆる経験をもとにして、恋愛関係、家族関係を得意とし、お客様と共に成長するスタイルを取る。