ユング心理学では「男性の中にも女性性が、女性の中にも男性性がある」
と言われています。
男性の中の女性原理をアニマ、女性の中の男性原理を
アニムスと言いますが、個人の成長と共にアニマやアニムスも成長を遂げ
るのだそうですよ。
男性は、たとえば社会的な地位やイメージ、時には家族の期待などさま
ざまな条件のもと、女性的要素とされる「感情」「情緒」などを抑えこみ、
自分の思う「男らしさ」を追求したり、そうあろうとします。
一方女性は
「決断力」「論理」などを抑えこむように育てられた、と言うことを少な
からず聞きます。
もちろん時代の趨勢や親を初めとする養育者などの思い
もありますが、こうして育てられた「男性性」「女性性」をジェンダー
(社会的性差)と言います。
最近職業や資格に関しても「看護婦・看護士
→看護師」「保母・保父→保育士」のように性別による区別の無い名前に
変化してますよね。また、かつては「家庭科」は女子、「技術」は男子、
と違う内容の授業を別々に受けていましたが、最近はそういった区別は本
当に少なくなりました。
まぁ、個人的にこのことについては一家言あるのですが・・・簡単に言うと
私は料理も手芸も嫌いじゃないが木工もエンジンの分解もしたかった、と
言うことにつきますけど。そう、私が中高生の頃には受けられなかったん
ですよね、授業自体。逆に、調理実習をしたい同級生や、刺繍や編み物を
得意とする先輩がいたり。こう言った作られた「男らしさ」「女らしさ」
ではなく、「男性原理」「女性原理」という捉え方で言ってみれば「持っ
て生まれた性別に特有の人間らしさ」と言うような感じでしょうか。
自分の中に逆の性別像(アニマやアニムス)がある、と言うことは恋愛
にも大きな影響があると考えられますね。よく言われるのはアニマ像・ア
ニムス像をパートナーに強く投影した結果起こる、パートナーシップでの
問題です。
つまり、男性であればアニマ(心の中の女性的要素を元とした
女性像、と言う感じでしょうか)のイメージを持ちますが、彼女や妻にこ
の部分を強く投影(自分の心の中で感じたことなどを相手がそうであるよ
うにみる)し、失望したり、思わぬ相手と恋に落ちたり、と言うこともそ
の一つでしょうね。女性の場合も同じです。
つまり「こんな女(男)と思わなかった。だまされました。
」などと言
うような悩み、時にはおのろけは、実は自分自身のアニマ(アニムス)像
をパートナーに投影した結果、「話が違うやんかぁーっ!」と言うことに
なるのです。
じゃあ、このアニマ(アニムス)とどう付き合うか。これが
次の課題になりますね。
自分自身の中の異性は成長させることができるわけですから、自分であ
って自分の理想の異性でもある、と言うことも言えると思います。
このイ
メージが自分自身を成長させ、パートナーシップも成長に向かわせうるの
ですが、このイメージだけにとらわれすぎると前述したようなトラブルに
なってしまったりすることも。じゃあ、どう成長させるの?と言う話にな
るわけですが・・・。
自分の中の異性との対話と言うのも一つの方法ですね。対話ってどうす
るのって?男性なら女性的側面・・・つまり感情面や情緒的な感覚、とき
めき、柔らかさを感じてみる。たとえば、空の色や、朝聞こえてくる小鳥
の鳴声、夕焼けに染まる街並み、、、他愛のないことに意識をむけて見て
ください。たとえば、空。ほんの数日前とは雲の形や空の色がもう違いま
す。町並みの染まり方も変わってきています。
その時は何も感じないかも
しれません。でも、少しでも気持ちを向けてみたら、季節が確実に動いて
いる事がわかると思いませんか?
また、女性なら理知的・理論的な面や決断力・判断力と言ったことを意
識して使ってみる。仕事を持っていたらこれはたぶんすごく日常的にして
いますよね。私、時々自分で決められないことがあるのですが(お昼のメ
ニューとか)、一転ここ!と言う時の判断も行動もすごく早い時がありま
す。動いたら最後そのまま流れに乗ってしまうのですね。それこそまるで
何かが降りてきたかのような素早さで、周りがびっくりすることも。いや、
驚いているのはたぶん私自身が一番・・・かも。で、そう言う時はすごく
論理的に話をする。まったく同じではないとは思うのですが、そういった
経験のある方少なくないんじゃないかな。物事を決める、行動する、と言
うのもすごく男性的なエネルギーが要るように思いますね。
本当のことを言うと・・・思春期の頃、そう、哲学にハマったりしてい
た頃の私は、「男らしさ」「女らしさ」と言う言葉にすら嫌悪感を持って
いました。
ステレオタイプとしての男、女、と言う感じがしてたんですね。
実際に母はそう言う言い方をよくしていたなあ、と思います。
で、「これ
が男らしさ」、と言うようなものを手に入れたいと思っていたし、「女ら
しさ」とされるものに見向きもしないでいようとしていた時期でもありま
した。でも、すごく情緒的で、きれいなものは好きだし、秋の夕暮れに似
合う曲をかけて涙・・・まではいかないにしても胸がきゅん!と言うあの
感じがとっても好きでした。
一方ですごく論理を多用しようとしていたし、
濫読の範囲は法律書や相対性理論にまで広がっていました、まさに頭の容
量から溢れてしまうみたいな感じやけど。まさにエレクトラコンプレック
ス、ですね。
すごく仕事ができてリーダーシップもとれる男性の上司が、音楽を聴い
てうっとりしていたり絵画の世界で遊んでいたり、お花を育てるのが得意
だったり、いわゆる「情のある人」と言うタイプであったなら、女性の部
下からの指示も相当高いと思われますが、それはその人が自分の中の女性
性を上手に使っているからだと思うのです。
自分の中の女性性が語る声が
聞こえている、まさに対話している感じですね。
一方、母性や感受性を使う日常や仕事をしているときにも、理路整然と
したスタンスは必要なことがあります。
何となくしてみた、も良いし、後
でその事について自分なりの理屈を考えて見るのも良いのかもしれません。
特に母性的な要素は理性とは対極にあるような部分が多い、と思います。
要するに、子供やケアを必要としている人には理論は通じにくい事が多い
からです。
なので、感性で動いてしまう事も少なくないのですが、後でた
どって見るととても理論的だったりすることがあるんですよね。ただ、自
分ひとりでやるとどうしても、「何となく」と言う感じになるし、「こう
すればうまくいく」と言う結果だけが証拠のようになったりすることも。
後で整理して見たりすると、自分のとった行動が実はすごく理に適ってい
た、と言うことがあったのなら、「これについてはこう言うところが良か
ったから次もこうしよう」などと言うように理論を後付けにするのも良い
かもしれませんね。
この「男性の中の女性性」と「女性の中の男性性」がお互いに強く惹か
れあうような恋が、本当に強い結びつきのパートナーシップだと言います。
何だかメビウスの輪のようですが、多くの人は否定されたり裏切られるこ
とのない愛を求めますね。そういった意味では自分の中の異性はまず裏切
る事はしません。自分にとって一番の理解者です。
なので、この部分をパ
ートナーに強く投影をしてしまうと、「だまされた〜」と言う話になるの
ですが、自分の中の異性の部分が相手の中にある異性の部分・・・あなたが
女性であれば彼の女性的な側面ですね・・・に魅力を感じる、と言うことだか
ら、つまりは彼のデリケートな心や優しさ、時には弱く見える部分のすべ
てを受け入れることができる、ということになります。
あなたが男性であ
れば、彼女の男性的な面に共感し、魅力を感じる、ということですね。
ところが、自己嫌悪が強いときには自分に関して否定的な感覚が多く、
こういった部分が認められるとは思えないのですね。相手に理想のパート
ナーを投影する分だけ、自分はふさわしくない、と感じてしまうのではな
いでしょうか。この負の投影を取り戻すのに、「自分の中の異性」を役立
てて見てはいかがでしょうか、と言うのが私からの提案です。
「彼より私の方が力強いわ」「彼の方が私よりデリケートだわ」と感じた
としたのなら、彼から見た私はどうでしょうか?「自分より男らしい彼女」
「でも僕の方がよく気がつく」・・・感じることはこんな感じなのですが、
「運転は私の方が得意だから私がやるわ」「掃除は僕の方が丁寧にできる
から任せろよ」・・・それでうまくいくのなら、全然問題はないと思いま
せんか?
同じように感じていても、その感覚をどの方向にもっていくかで、パー
トナーシップの結びつき方は強くもなれば、痛みにもなります。
そして、
あなたが痛む、と言うことはとりもなおさずパートナーの痛みでもありま
すね。それはあなたが心から望んでいるものとは違うのではないでしょう
か。
「あなたの中の異性」を彼に、彼女に、見せて上げてください。その姿を
押し付けるのではなく、「あなた自身」として、彼や彼女に逢わせてあげ
てください。ちょっと勇気がいるかもしれません。恥ずかしかったり、隠
したい、と感じるかもしれません。でもそれはあなただけではなく、パー
トナーの中にもあるのです。
彼、彼女の内面に触れてみたいと思うのであ
れば、それはあなただけではないはずです。
得意な分野、不得意な分野を羨ましがったり責めてしまったりするので
はなく、お互いの美点として分かち合えたらどんなに素敵でしょうね。今
まで苦しく感じていた事が本当に軽く、楽になると思いませんか。大切な
のは、バランスです。
あなたの中、そしてパートナーシップにおいても。
相手に不足を感じるとき、自分につくづく愛想が尽きたとき、少し思い
出してみてくださいね、あなたの中の、パートナーの中の異性の存在を。
本当にほしいもの、目指しているものはそこにあるかもしれません。