◇〜鬼平犯科帳に魅せられて〜

向井 康浩僕には近頃ハマってるコミックスがあります。
時代劇でタイトルは「鬼平犯科
帳」。池波正太郎さんが書かれた小説を原作にして、ゴルゴ13でおなじみの
さいとうたかをさんが、わかりやすい劇画にされた作品です。
では、鬼平犯科帳の舞台となる時代背景と、登場人物・主人公の長谷川平蔵と
平蔵が長官として先頭に立つ取締所の「火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらた
めがた)・・・以下:火盗改め(かとうあらため)」についてご紹介します。
時は、18世紀末頃の江戸が舞台。徳川幕府は、十代目の将軍が世を治めてま
した。将軍の名は家治(いえはる)。大きないくさが途絶えて二百年近く平和
が続きます。
平和が続く中にも、日照り続きの干ばつや、農作物がとれない飢
きんが相次ぎます。
また、将軍を補佐するサポート役の前老中の施政が思わし
からざるものだったこととも重なりました。
この家治の時代にあらわれた老中
は、「寛政の改革」でおなじみ松平定信でした。
世情は、どちらかと言えば常
に波立つ、落ち着かない状況でした。
平蔵が長官を勤める火盗改めは、江戸や江戸以外でも押し込み強盗など悪事を
働き、終えたら手の届かないところへ逃げるすばやい動きをする、ずる賢い狡
猾(こうかつ)な無宿・無頼者専門の役所でした。
交代々々で江戸の町民の平
和を守る北町奉行所や南町奉行所でカバーしきれない所を、時間のかかる手続
きを抜きにして取り締まる権限を与えられ、俊敏性と機動力に長けたスペシャ
ルチームのような存在でした。
それだけに、手柄を真っ先にあげ続けられた北
町・南町奉行所からは常に、ねたみやしっとの対象にされ続けた側面もあった
ようです。
主人公の長谷川平蔵は、複雑な生い立ちを経た四十三歳の男性として登場しま
す。徳川将軍家直参(じきさん・・・直接将軍家に仕える)の侍・旗本の長谷
川家五代目伊兵衛宣安(いへいのぶやす)の三男坊が、平蔵の父親・宣雄(の
ぶお)でした。
旗本家の当主は長男(六代目に就く)が継ぐのが慣例で、兄弟
がたくさんいて勤め口がない場合には、養子縁組に出されたり、生涯勝手(一
生何もしない)のまますごすことも多かったようです。
宣雄の兄にあたる次男
坊は、縁組で他家に婿へ行きましたし、宣雄は何もすることがありませんでし
た。そんな中、宣雄は長谷川家の奉公人女性・お園とねんごろになり、産まれ
た子供が平蔵でした。
宣雄は侍を捨て、平蔵と共にお園の実家で過ごします。
長谷川家五代目伊兵衛宣安のあとを継いだ六代目の長男がなくなり、あとを継
いだ七代目にあたる、伊兵衛宣安のいとこの修理(しゅり)も亡くなると、宣
雄は長谷川家の八代目当主として呼び戻されました。
宣雄は呼び戻されるにあ
たり、修理の妹・波津(はつ)をめとることとなり、お園と別れました。
しか
し、平蔵は幼少のためそのままお園の家に残ります。
お園は落胆のあまり程な
くこの世を去り、平蔵は十七歳までお園の家で過ごします。
また、平蔵はお園
の顔を知らぬまま大きくなります。
十七歳になった平蔵は、ある日父親の宣雄から長谷川家の九代目跡継ぎ当主候
補として呼び戻されます。
宣雄と波津の間には、子宝に恵まれず、家を残すた
めの苦渋の決断でした。
家を次ぐのが長男が慣例の中、長男が当主を勤められ
なくなった時だけ、兄弟や縁者が継ぐ・・・平蔵もその一人でした。
慣れない武家の作法や強要・武芸を身につける中、ウサを本所深川の享楽街通
いで晴らしました。
街を仕切る無頼者にぐぅの音も出ない程、売られたケンカ
も滅法強く、今風に言えば常に一目置かれた豪快なプレイボーイで、武家のし
きたりや常識からは大きくはみ出したやんちゃなワルでした。
そんな生活を六
年続けたのち、平蔵は二十三歳で長谷川家を継いで九代目当主となり、将軍家
に仕えながら四十二歳の秋、半年間の任期の約束で一時的に任じられた火盗改
め長官を翌年の春、退きます。
ところが平蔵の後に来た後任の長官が役に向か
ず、一旦退いたこの年の四十三歳の秋、再び火盗改めの長官として任ぜられま
す。物語の多くは、この二度目の長官就任からの捕物帳がメインです。
刃向う無頼者達には容赦なく「鬼平」の異名をとる平蔵も、配下の同心達には
情や義理にあつく、「おかしら」と呼ばれて親しまれ、常に弱い立場の人たち
の心に寄り添える優しさを持つ男性です。
また見所がある者や悪に徹し切れな
かった者を協力者(転向者)として召抱え、探索にあたらせる器量を持ってま
した。
平蔵の、深く大きな懐を持ったキャラクターは、青春時代に享楽街へ通いつめ
手のつけられないワルを繰り返すことで知り尽くした、世事の表事情・表に出
ない事情が取り締まりに活かされてるというのですから、人って・・・自分の
生きてきた道がいつ、どこで、どんな形で花開くか、わからないものですね。
僕もそんな平蔵に魅力を感じ、自らの来し方と重ね合わせながら「鬼平犯科帳
」を読んでます。
とっても傷ついた、悔しかった、悲しかった体験もあった。でも、その経験が
人の内面を広げたり深めたりして、人を支える優しさにつながったり、弱さを
受けとめられたりする形で役に立ったり、花咲かせることもあるのですよ。
悪党をこらしめるヒーローが活躍するストーリーは、ハッピーエンドの結末が
予想されても、ついつい最後まで見てしまう。ハラハラ・ドキドキ・イライラ
しながら、ス〜ッと胸の仕えがおりたような感じ。もしかすると僕達は、登場
人物と一緒に感情のカタルシス(浄化)を身近に、手軽に出来る手段として痛
快・明快な、勧善懲悪のストーリーを好むんでしょうね。
だから、わかっちゃいるけど、やめられない(笑)。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

退会しました。