憑き物事件

今年の3月に母と電話で話していて、ちょっとしたことで久しぶりに衝突しました。
やっちゃった感はありましたが、そのおかげで学んだこともいろいろあったので、まあいいかと思っていました。
私はそのケンカを引きずる気分はなかったし、母もしばらくしたら忘れるだろう、ぐらいの感覚だったのです。
だって、かつて母は何度となくヒステリーを起こし、子どもの私はけっこうつらかったのです。
今回は私が言い過ぎたところはあったけど、今までのことと合わせて考えれば、チャラよ、チャラ、母だってそう考えてくれるだろう、と思っていました。
そして5月の連休に帰省して母と会ったのですが…
私の予想に反して、母が3月の言い合いのことをかなり根に持っていることがわかりました。
「もう電話であんたとは話したくない、用がある時はファックスを送れ」と言われてしまったのです。
さすがに「およよ」と思った私。
でも、そういうことを言いながらも、数日一緒に過ごした間、母の態度はいつもどおりだったので、私は楽観的でした。
気にせず電話すれば母が出るだろうし、何度か話しているうちに母のわだかまりも消えていくだろう、と。ところが、その後、たまに電話をかけても、母は一切出ないのです。
電話口に出るのは父です。
今まではいつも母が出ていたのに。
えー、そんなに怒らなくてもいいじゃない、はっきり言ってお互い様じゃないの、と思いながらも、段々と、そっちがそうならこっちだって…の気分になってくるのが人間です。
だって、もとはと言えばお母さんが、何かというとお姉ちゃんを優先するから腹が立つんじゃない、3月のケンカだって、それが元になってるんじゃない、お母さんのバカ!
と、ついつい思ってしまう私。考えないようにしようと思っても、「どうせお姉ちゃんの方が大切なんでしょ!」というひねくれた思いが湧いてきます。
お母さんにもいろいろ事情があるし、私の考え過ぎもあるかもしれないし、もうそんなことどうでもいいやん、という声も心の中にはあるのですが、私の中のいじけ虫はなかなかおさまりません。
そんなある日、カウンセラー仲間の友人に、雑談がてらこの話をしました。
自分でも何をそんなにこだわっているのかわからないのよね、でも、「どうせ大事なのはお姉ちゃんでしょ」っていうのが頭から離れなくて…、と話しているうちに、ふっと、「あれ?」という感覚がしました。
私の無意識が何か言ってるぞ…。
実は、母にも似たような痛みがあることを私は知っています。
母の場合、自分より妹の方ばかり家族からかわいがられた、という思いがあるらしく、以前はその話をよくしていました。
ただ、さすがに年もとってきて、この先はその妹とも仲良く支え合っていかなくてはならない、という気持ちもあるのか、過去の不満を口にしなくなりました。
実際、母の妹である私の叔母は今ではとてもしっかり者で(昔は泣き虫だったそうです)、ちょっと変わり者の私の母をとても上手にサポートしてくれる存在です。
でも、母の痛みがなくなっていないことは、何となく感じます。
そして私は、どうもその痛みに反応して、そこに重なる自分の痛みを強く感じていたようなんです。
共鳴してしまっていたんですね。そこには、「母を痛みから救い出してあげたい」という願いもあったようです。
これって「癒着」なんですよね。自分の感情と相手の感情がいっしょくたになっているわけですから。
ともかく、どうも私自身の痛みは、さほど大きなものではなかったみたいです。
確かに姉を優先されたという感覚はありますが、いろいろな事情を考えると仕方がないとも本当に思うんです。
母は病気がちでよく入院していて、いつも親戚に預けられていた姉。一方、7つ下の私が産まれた頃にはかなり回復していて、母のそばで育った私。母が姉に対して「十分なことをしてやれなかった」という負い目がある、というのは、私も親となった今はよくわかります。
ですから私たち姉妹が大きくなってから姉を優先するように見えたのは、母なりに愛情のバランスを取ろうとした結果なのでしょう。
ということで納得できる気持ちがあるのに、しつこくこだわってしまうことが本当に不思議だったんですが…。
共鳴、母を救いたいという思い、癒着。そんなものが隠れていたなんて、自分でも驚きでした。
っていうか、気付いてみればこれは心理学の親子関係の基本的なこと、なんですけどね~、いや~、自分のことは見えていないものです!はっはっは~!(と笑ってごまかしたい気分です…)
無意識の声に耳を傾けてみて、どうやら母の痛みに共鳴してしまっていた、ということに気付いた瞬間、私のこだわりはすうっと小さくなりました。
そして、まるで憑き物が落ちたように、心は平静を取り戻しました。
あれれ、何をあんなにこだわっていたんだろう???
って感じです。
えっと…、あー、特に考えるようなこともないなあ、あー、以上ですか、ふーん。
って感じです。
でも、ちょっとこじれてしまった母との関係をどうしたらいいのかなあ…。でもまあ仕方ないしなあ…私だって悪気があったわけじゃないし…流れにまかせるかあ…。
今回の憑き物事件、これにて一件落着、ということにしておきましょう。
心って本当に不思議。ミステリアス。これだからはまってしまうんです。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

退会しました。