14年前の春、大失恋を経験しました。
ちょうど同じ時期に仕事が忙しい部署へ異動になり
「仕事に集中したら、彼を忘れることができる…。」大失恋の悲しさを感じたくなくて、自分をハードワークの世界に追い込んでいきました。
安らぎとか、余裕なんて遠い世界。ギスギスした心。いつも怒っている表情。人にも自分にも優しくできない。そんな嫌な自分になっていきました。
何か大切なことをあきらめている自分にどっぷりと浸かっていた6月。
高架道路を1人ドライブしていると、初夏の澄み渡った空に眩しく映えるレモン色の家が目に入りました。
「あのレモン色の家に行こう!」直感で高架道路を降り、迷いながら車を走らせました。
やっと着いたレモン色の家。近くの空き地に車を停めて、家の前に行くと「ワン!ワン!!」犬の鳴き声がします。
広い庭に作ってあるサークルの中で3匹のゴールデンレトリバーが楽しそうに水遊びをしていました。
「わっわっ!!かわいいーー!!!!」思わず笑顔になる私。やさしい気持ちになったのは、何ヶ月ぶりだろう…。
レモン色の家は、最近オープンしたばかりのペットショップだったのです。
イヌたちに近づくのを躊躇している私に、「どうぞ~遊んであげてくださいね!イヌたちも喜びますから!!」とご主人が声をかけてくれました。
イヌたちと遊んだ後、お店の中で冷たい麦茶をいただきながら、ご主人とお話をしました。
しつけのこと、食事のこと、病気のこと、ご主人はイヌを飼う上で大事なことをたくさん教えてくれました。
窓から入ってくるさわやかな風が時間を忘れさせてくれます。
こんな平和な気持ちになったのは久しぶりでした。
家に帰ってから、レモン色のペットショップがずっと気になっていました。
ご主人のイヌが大好きという気持ちが、私のギスギスした固いハートがほぐしてくれたのか、子供の頃からずっと抱いていた夢を思い出しました。
「大人になったら、大きなイヌを飼いたい!!」
でも、もう1人の私は「飼いたいけど、もう、あの時のような思いはしたくない。」
実は昔、チロという柴犬を飼っていたのですが、病気が原因で虹の橋を渡っていくのを、見送っていたのです。
数年経っても、悲しかった気持ちは癒すことができず、もう2度とイヌを飼わないと心に決めていました。
そんな私を誰が、あのペットショップに連れて行ったんだろう?雲の上にいるチロ?ボロボロな私を心配してくれたのかな。
「チロ。私、またイヌを飼ってもいい?」なぜだかわからないけど、涙が出てきました。
一週間後、レモン色のペットショップに行きました。
あたたかく迎えてくれるご主人にホッとしました。
そして先週来た時には居なかったフワフワなぬいぐるみのようなゴールデンの子と出会いました。
「ウチの子になる?名前はジュリだよ。」その子を車に乗せて家に帰りました。
ジュリは、私の家にすぐに馴染んだのか夜鳴きをすることなくグッスリ寝ていました。
生きる力の強いジュリは、家全体を明るく元気にしてくれました。
私は自分をいじめるような働き方を卒業して、ジュリのために働く生活に変りました。
長い時間をかけての散歩。しつけ教室に通ったり、食事は体にいいものを選んだり…。とにかく体力とお金がかかります。
自分が病気で倒れたらジュリに何もしてあげられなくなる。お母さんのような気持ちになりました。
成犬のジュリは、力があり過ぎて家の壁をこわしたり、私を転ばせたりと暴れん坊でした。
おとなしいのは寝ているときだけど、寝顔を見ていると平和を感じました。
ジュリは、私たち家族に何か特別なことをしてくれたわけではなかったけれど、そこに居てくれるだけで何度も救われました。
ジュリが歳を重ねていくと、死というものが見えてきました。
「ジュリが…ありえない…。」怖くて仕方がありませんでした。
そんな私を無視するかのように、ジュリは死に向かっていきます。
ジュリが生きていることは当たり前ではないことにやっと気付いたとき、昔飼っていたチロを思い出しました。
チロには、してあげれなかったことがあったのです。
それは、できるだけ一緒の時間を過ごしてあげることでした。
それができずに、ずっと後悔してました。
チロへの後悔から学び、今を生きているジュリにしてあげられることは、一緒にいる時間を大切にしてあげることでした。
ジュリとたくさん笑って、いたずらをしたら叱って。一緒にお昼寝をしたり。海を見せてあげたり。
毎日、ジュリが生きていてくれることに感謝しながら…。
そしてジュリは、2年前の11月、虹の橋を渡りチロがいる場所へ行きました。
私をレモン色のペットショップへチロが連れて行ってくれたこと、そこでジュリと出会えたことも、私にとっては奇跡のような出来事でした。
チロとジュリは、一日一日を大切に生きるということを教えてくれるために、私の家族になってくれました。
そして、これからも雲の上から私を見守っていてくれて、ピンチな時にはそっと助けてくれそうな…そんな気がします。
また、あのレモン色のペットショップに行ってみようかな。
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1件のコメント
コラムを読んで、あったかい気持ちになりました。
私は別れが怖くて、人と深く関わることを避けてきました。
でも、先で別れが来るとしても、一緒に過ごした時間はかけがえのないものですよね。
勇気をもらいました。
ありがとうございます。