着ぐるみ

昨年の3月末、20年間勤めた会社を辞め、かれこれ1年が経過しました。
20年という歳月が作り上げた習慣とは恐ろしいもので、家の中で何かをしながら電話を取ると「はい、○○○○研究所です。
」と勤めていた会社名を言ってしまったり、考え事をしながらエレベーターに乗るとデスクのあった3階のボタンを押していたり、ボーっとバイクに乗っていると会社に向かっていたり・・・。
会社を辞めて3か月くらいは、そんな一人ボケをやっていました。
そして、あまりにもナチュラルなその行動に、私は自分でも着ている事に気づかない“着ぐるみ”を着ているのではないかと思ったのです。
会社を辞めたいと思い始めて5年、カウンセラーとしてやっていきたいと思って3年、紆余曲折ありながらもその想いが達成されて、とてもハッピーな状態なわけです。
しかし、辞めたらこんな事したい、あんな事したいと、勤めていた頃の想いとは裏腹に、自由な時間がたくさんあるのに自由に行動しない、そんな着ぐるみ。
会社の経営方針、培われてきた社風、そんな枠組みを息苦しく感じていたのに、いつの間にかそれに同化して、思考パターンや行動が規制されている、そんな着ぐるみ。
経営管理、対外的な交渉、経理や庶務など、様々な人が支えあって組織として仕事をしていて、組織の看板で仕事をしていた、そんな着ぐるみ。
辞めたのだから、早く着ぐるみを脱いだらいいのにと思うかもしれませんが、これがなかなか脱げないのです。
自由になると責任が伴い重いと感じる、枠組みを外れると不安を感じる、一人だと思うと孤独や自信のなさを感じてしまう。
着ぐるみを着ることによって、私は、これらのネガティブな感情を感じずに済んでいたのかもしれないなぁと思いました。
それでも、様々ネガティブな感情を感じながら、目の前にぶら下がっている事をこなしていると、いろんな場面で、これまでの仕事が役立つことを実感し始めました。
自治体や企業に向けた心理学講座の提案書を作成、プレゼンテーション、講座の準備、実施報告書の作成など、これまでの仕事で自分でした事のあるものもあれば、人がやっていた事を傍で見てきたことを、見よう見まねでやってみました。
数々の失敗や反省点はあったものの、だてに20年働いていたわけではないなぁと、少し自信を取り戻すことができました。
これまで、当たり前のことのようにやっていたので、自分自身がどのような事が出来るのかということを、強く認識していなかったのだと思います。
また、勤めをやめた途端、何もできなくなってしまうと錯覚していたのかもしれません。
着ぐるみを脱いでも、着実に知識・技術・知恵・経験として身についた確かなものが在るのだと思えました。
まだまだ、未熟なところも、自信のないところも、たくさんありますが、春の訪れとともに、重ね着している着ぐるみを、徐々に脱ぎはじめてみた、今日この頃です。

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