小さな奇跡 ~1年の締めくくりに思うこと~

今年はいろいろなことがあった年だなぁ・・と1年を振り返ってみてそう思います。
昨年の今頃には思いつきもしなかった出来事がたくさん起きた年でした。
「年女」の1年間は、10年後に振り返ってみると「ターニングポイント」だったなぁ・・などと思うかもしれません。
特に大きかったのは、父が病気で倒れたこと。
一時は命を危ぶまれた父。
今も入院中の父のところに毎日通う母。
父の回復のひとつひとつが母の喜びになり、父の不調のひとつひとつが母の悲しみ、苦悩になっていました、
父は右半身が麻痺した状態で、今も言葉を話すことはできずにいます。
ごはんも口から食べることはできません。一日の大半をベッドで過ごしています。
でも、以前は話しかけてもあまり変化しなかった表情が、問いかけや周りの状況に応じてはっきりと表情が変化するようになりました。
うれしいんだな、やる気なんだな、疲れたんだな、怒ってるんだな、表情の変化で、父の思いが伝わってきます。
毎日毎日、口の動きや手足の動きを作るためのリハビリを3回に分けて、合計3時間。
母は必ず父の側にいて、声をかけたり、リハビリを手伝ったりしていました。
ずっと側にいる分、父の体調が悪く、リハビリが進まないときには、母はとても落ち込んでいました。
「いっそ、あのまま逝かせてあげていたほうがよかったんじゃないか?」という気持ちにもなっていました。
人は大切な人が苦しんでいるとき、そしてその人を助けてあげられないとき「自分のせいだ」と思います。
それは、相手が大切であればあるほど切実に感じる感情なのです。
自分を責めずにはいられないほど、相手の幸せを願うからこその感情・・。「罪悪感」を強く感じるのは、幸せにしたい誰かがいるとき、だとも言えると思います。
車イスに乗っているご老人の車イスを押している奥さんの姿を見たとき、母がこう言いました。
「お父さんが元気な時には、車イスなんて大変だな、と思っていたけれど、今は、うらやましくてしかたがない」と・・。
何もしゃべらず、点滴で栄養をとり、1日のほとんどをベッドで過ごす父を見ていると、回復して欲しいと思いつつも、車いすに乗るなんて夢のまた夢、のような気分にもなっていたんです。
リハビリ目的の病院に転院してからも、なかなか車イスには乗れなかったのですが、リハビリの一環として、頭の後ろにもガードのある特殊な車イスに乗って座る姿勢に慣れる訓練をしはじめました。
けれど、訓練士さんが数名がかりでイスに乗せる、というような状態で、自分で座っているという印象は全く感じられなかったんです。
この車イスに、座っていられるようになってくれたら、それだけでもありがたい。母も私も、どこかでそんなふうなあきらめの気持ちが持ち上がってきたりもしました。
ある日、その特殊な車イスの数が足りない、ということがありました。
訓練士さんも、母も、なんとか車いすに座らせたいという思いがあったので、今までよりも不安定で、父の体に負担のかかる、普通の車イスを渋々使うことにしました。
母にとっての小さな奇跡が起きたのは、その時でした。
車いすに座った父が、自分で動かせる左手を使って、車イスのタイヤを回し、たまたま床についていた左足で蹴るようにして、自分で車イスを動かしたんです。
訓練士さんにも予想のつかなかった出来事でした。
母は父に向かって「すごいね、すごいね、おとうさん」と何度も言ったそうです。
すると、父も満面の笑顔になって「うれしい」表情をしたのです。
その日から、母は、再び、父の回復を信じる気力を得ました。
母は、相変わらず、毎日、父のリハビリに付き添いながら、父のがんばりに「すごい!」と声援をおくり、父が弱気になると「がんばれ!」と励ましています。
父は母の思いに応えるように、小さなサプライズを母に届けているようです。
たくさんの入院患者さんを見てきた病院のスタッフに、「ここまで一生懸命に付き合う人はめったにいないです。
ほんと、頭が下がります。
」と言われる母。
今では、スタッフに「仲間」扱いされ、若いスタッフからは「お母さん」と呼ばれています。
「母」の思いは周りの人達にも伝わり、同じ部屋に入院している患者さんや、リハビリに通う人たちも、父の顔をみては「がんばって」と声を書けてくれていると聞きます。
絶望したくなる気持ちを何度も感じながらも、ずっと父に寄り添い、誰よりも父の回復を願い、信じている母。
そんな父と母の娘であることを誇りに思わずにはいられません。
そして、自分なりの方法で、父母をサポートできるくらい成長した自分自身にも、拍手を送りたいと思うのです。
みなさんにとって、この1年はどんな1年だったでしょうか?
思っていた以上の幸運を手にいれた方、
思っていたことがちっともうまくいかなかった方
いろいろな思いがあると思います。
反省に次ぐ反省を繰り返して、自分にダメ出しをしたくなるかもしれません。
でも、1年の最後です。
がんばった自分や悩んだ自分、凹んだ自分を責めるのではなくて、「よくやったね」と声をかけて労ってあげてもいいんじゃないかなぁと思うんですよね。
1年の締めくくりをあったかい気持ちで過ごせますように・・
そんな思いをこめて、このコラムの筆を置きたいと思います。
最後になりましたが、
本年も「心理カウンセラーのコラム」をお読みいただきありがとうございました。
良いお年をお迎え下さい。
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