もし、あなたの同僚にかつての恋敵にそっくりな人がいたとしたら、どんな気持ちで仕事に向き合うことになるでしょう?
そっくりなんであって、もちろん別人です。その人をきちんと個人として認識できるまでは、つい張り合ってしまったり、優越感や劣等感を感じてしまうかもしれません。あなたが出会う人に誰を投影するか?で人間関係が大きく変わってしまうのです。
以前、友人からこんな話を聞いたことがあります。
「今度の職場の上司ってバリバリ仕事できる上に、けっこう厳しい人で、みんなから怖がられてる人やねんけど、見た目も声もねむねむ(私のあだ名)そっくりやねん。だから、全然怖くないねんし、余裕やん?だから、つい上司やけどタメ口で話しそうになるくらいやねん。だから、けっこうその上司から可愛がられてるんよね。ねむねむのお陰やわ。」
彼女の中での私の位置がうかがい知れる逸話でもありますが、要するに彼女は、その怖い、厳しい上司に“全然怖くなくて余裕で扱える根本”を投影しているわけです。
その上司はもちろん根本ではないのですが、彼女には私に見えるわけですから、その上司に対しては私に接するのと同じような“親しみを込めた”態度で接することができます。
気を許せばタメ口をきいてしまいそうなくらい、気軽に彼に近づきます。
そうすると当の上司からは彼女のことが見えるのでしょう?
他の部下はいつも自分を怖がり、気を使って接してきます。でも、私の友人は全然自分を怖がらずに気もあまり使わずに接してくれるわけですよね。そうしたら、彼も彼女に対して心も開きやすくなり、可愛がるのも自然なことだと思いませんか?
今後は逆の話。私自身の話を一つご紹介しましょう。
職場の男性の上司というのは自分の「お父さん」を投影しやすいポジションです。(他にも先生、経営者、お金、仕事など社会性に関するものにお父さんは投影されやすくなります。一方、お母さんは仲間、友達、目上の女性などに投影されます。)
私の父はとても不器用な人で、自分が幼少期に母親を失っているせいで、人を愛することが上手にできなかったんですね。
仕事も忙しかったこともあり、私は父と少し距離のある関係でした。
そんな私がいた以前の職場の上司はとても温和で優しく、穏やかな方でした。もちろん、怒るときは怒りますが、普段はまさに好々爺と言えるような人物。
みんなが彼のことを慕っていたのですが、私はなぜか苦手だったのです。
私のことも可愛がってくれていることは分かっていたのですが、近づきにくかったのです。
そのせいか「根本君はあまり私のことをよく思ってないんじゃないのかね?」などと誤解されたこともあったんです。全然そんなつもりじゃなかったのに。
私は無意識のうちに、その上司に「距離のあるお父さん」を投影し、どう近づいていいのか、どう接していいのか、分からなくなっていたのです。
そんな風にあなたが接する人の多くは過去に出会った誰かを投影しています。
そして、その投影している人に対するのと似たような態度を取ってしまうんです。
もちろん、頭ではその上司は「ねむねむ」ではないし、「お父さん」ではないことは分かっています。
しかし、投影は自然現象みたいなもの。分かっていても無意識のうちに起こるんですね。
そうするとあなたの今の人間関係は過去の人間関係に大きく影響を受けてしまうことが分かりますよね。
もし、あなたが「ビジネス上、大切な人だからいい関係を築きたい」と思って出会った人に、かつての恋敵を投影してしまうとしたら、いい関係を築くどころか張り合ってしまうでしょう。もちろん、頭では別人と認識していたとしても。
だから、いい人間関係を築くためには自分自身を癒しておき、「苦手な人」を少なくしておくことがとても大切と言えるのです。
ただ、最初は過去に嫌な目にあった誰かを投影して苦手に感じていた人も、距離が縮まっていくと、その人をその人としてきちんと認識できるようになっていきます。
つまり、過去の恋敵だと思っていたレッテルが剥がれるわけですね。
だから、きちんと向き合っていくことでその人との関係性を良いものに変えて行けるのですが、過去の痛みによってなかなかそれも苦痛な場合もあるのです。
それは次回、ご紹介することにしましょう。