自立の時代は別名「傷ついた男性性の時代」。
感情を抑圧し、自分のやり方を模索し、一人で生きようとする姿は、大人への一歩に違いない一方で、孤立感やプライド、周りとの競争、けんかなどの様々な問題を引き起こします。
そこで、特にこの自立時代に起こりうる「心の壁」「正しさの争い」「権威との葛藤」の三つを取り上げ、それぞれの問題について解説していきます。
特に自立の場合、相手を攻撃するにも“正当化”が使われるので、一見、反論のしようがないように見えることもあるのです。しかし、たとえ相手を論破して勝利を収めたとしても、残念ながらそこに「幸せ」はありません。
そこで、傷ついた男性性により、理性的・思考的になりすぎた意識を癒すために、女性性の効果についても最後に触れ、バランスの良い、成熟した大人になるためのプロセスをご紹介しています。
自立を手放し、相互依存のステージで、より自然体で、楽に生きられるための参考にしていただければ幸いです。
私たちは幼少期の「依存」時代を経て、自分のことは自分でする「自立」時代へと移っていきます。
会社に入ったばかりで右も左も分からず、先輩や周りの人に「依存」していた新人君が自分なりのポジションや仕事のやり方を見つけて「自立」していく姿でもあり、始めは大好きでべったり(依存)だった彼女が、時と共に自立して、自分の主張をはっきり言い出した頃のことであり、私たちの関係性の中では常に起こりうるできごとです。
この「自立」のプロセスにおいては、「自分のやり方」「自己主張」「存在意義」「居場所」と言った、ある種前向きな部分もありつつも、期待・競争・比較・けんか(パワーストラグル)・デッドゾーンと言った問題を作ることもあります。
必要なことなんだけど、でも、より良い人生のためには障害になる部分もある、というイメージですね。
どれも、「自立」の次のステップである「相互依存」のステージに向かうためには必須のできごとなのですが、その問題に引っかかってしまうと、「頑固な私」「弱さを見せられない私」も出て来て、プロセスが滞ってしまうことも少なくありません。
今回は、この自立時代に起こりうる典型的な問題について紹介し、その対処方法を考えて行きたいと思います。
そもそも「カウンセリング/セラピー」は「自立」から「相互依存」への橋渡しにもっともその効果を発揮することもあり、私たちカウンセラーが日常、もっとも接している問題でもあるんです。
●傷ついた男性性がもたらす“心の壁”
「自立」時代は、心理的にみると「男性性」の成長期に当たります。(対照的に「依存」は「女性性」の成長期と言えます。)
ところが、自立時代というのは「依存できないから自立する」という形になるもので、表面的な自立の態度とは裏腹に、その背景には“依存心”を隠し持つのが特長です。
たとえば、新入社員も始めは先輩から面倒を見てもらえるのですが、しばらく経つと「まだ、そんなこともできないのか?」「そろそろ自分でやったらどうだ」「もう同期の○○君はだいぶ数字を挙げてるみたいだぞ」などと、いい意味では“自立を促す”先輩の発言を受けたりします。
すると、正直傷つきますよね?
今までは優しくしてくれたのに、なんで?って。
そのときまだまだ依存したい心としては凹んでしまうのですが、一方で、自立心は、「なにくそ!」とその言葉に反発し、「それならやってやろうじゃないか!」と頑張るようになります。
それが“プライド”であり、“意地”でもありますし、この段階で私たちは“頑張る”ということを身に着けていくんです。
だから、このパターンははるか昔、皆さんの幼少期から少なからずあると言えるのではないでしょうか。
こうして自立していく段階で、男性性のエネルギーが成長していくのですが、同時にここでは潜在的には心の傷を抱えながらの自立となるんですね。
それゆえ、様々な問題が発生してくるのです(心の自然治癒力は、その傷を癒そうとしますから、あなたに「ここに傷があるよ」ということを問題を通じて教えてくれるようになるわけですね。)
さて、そうしてバカにされないように、自分で何でもできるように、頑張って自分の存在を認めてもらえるようにするためには、私たちはまず自分の周りに壁を作るようになります。
人から何か言われても聞こえないようにするためであり、また、自分自身のテリトリー(縄張り)を明確にするためでもあります。
当然、この壁は“身を守る”ための“防御壁”の意味あいも持ちますし、あなたが傷ついた分だけ、分厚く、高い壁を作って身を守るようになるのです。
そうして周りと対峙するようになっていきます。
これが自立のプロセスで起こる“心の壁”なのです。
この壁により、私たちは“人と自分は違う”というアイデンティティを確立する一方で、他の人を近づかせなくなるため“孤独感”を持つようになります。
この壁に守られるため、周りから攻撃されることは減りますが、でも、自分から人に繋がることもできなくなります。
そこではまるで“鎧”をまとってしまったかのように、人のぬくもりや親密感を感じられなくなるんです。
このときの“心の壁”は“観念”とも言われます。
「傷つかないための」あなた独自の“ルール”なのです。
このルールは自分を守ると同時に、孤独感はもとより、対立を生み出していくようになります。
それが次回ご紹介する、“正しさの争い”です。
>>>『傷ついた男性性かもたらすもの(2)~正しさの争い~』につづく