傷ついた男性性にとって、権威者(リーダー)は脅威に移るもの。
だから、自らの正当性や、自分が見つけたやり方を使い、権威を否定・批判・攻撃します。「上司のやり方はもう古いんだよ」とやるわけです。ところが、この先、あなたが上司になると、投影により、あなたが周りから批判されるような恐れを抱くようになるのです。それ故、権威を持つことを怖れるようになり、そのパワーがもたらす恩恵を受け取ることができなくなるのです。
●権威との葛藤
前回、父である初代社長と息子である2代目社長との「正しさの争い」について簡単にご紹介しました。
若社長が自分の正しさを証明するために暴君になったわけですが、この背景には「権威との葛藤」という問題が隠れていることが多いのです。
「権威」とは、パワーの象徴であり、社会においては、社長、上司、教授、先生、先輩、政治家、官僚などの“上”の者の総称です。しかし、広義では「成功者」や「老賢者」と言った、“男性性の成功者のシンボル”を表すこともあります。
そして、この権威は多くの場合、皆さんの“権威的な親”を投影していると考えられます。
“権威的な親”とは、一般的には父親を指します。しかし、父親が不在、機能不全等で母親がその役割を担うこともあります。
また、この葛藤は表面化することも少なくないのですが、一方で、『自分としては、まったく父親との間に問題はない』と感じているにも関わらず、実際には根深い権威との葛藤が隠れている場合もあります。
すなわち、その自覚はないけれど、権威との葛藤に基づく問題(仕事やお金の問題など)が起きている場合もあるのです。
権威との葛藤は、表面上は依存の立場(部下)から自立である権威(上司)を攻撃するのが一般的ですが、ちょっとややこしいところも少なくありません。
というのも、この攻撃する部下側もある程度大人になっていて自立しているため、依存的な感情的な攻撃ではなく、論理的、正しさなどを使った攻撃となるんですね。
すなわち、「自立の依存」が「自立の自立」を批判するわけです。
そのため、一見、その攻撃(指摘、分析)がとても正当性があるように見えるのです。
「先代社長(オヤジ)のやり方は古い。間違っている。」
「上司は自分のポジションを守りたいから、ああやって俺を批判するんだ」
「先生はすぐにエコヒイキをして、自分がかわいい生徒だけを相手にしている」
「社長のやり方ではもううちの会社は長くないな。早く他に移った方が賢い」
「今の政治家に何ができると言うんだ。自分のことしか考えてないじゃないか」
「成功者と言われる人はかなり悪どいことをしてるからああなれたんだ」
こうした葛藤、皆さんも一度や二度、いや、もっと感じたことがあるのではないでしょうか?
でも、その一つ一つのメッセージは「確かに、なるほど!」と言える説得力を持ち、その言葉自体は「正しい」ことも少なくないのです。
これが“権威との葛藤”の特長であり、分かりづらいところです。
これは潜在的には自分自身が権威(パワー)を持つことを怖れていることの現れです。
家族で言えば、「親」になることへの怖れの表れです。「自分がちゃんとした親になれる自信がない」と感じたことのある方、潜在的にこの問題があると思って間違いないですね。
でも、ほとんどがそういう思いを抱かれていると思うのです。すなわち、それくらい多くの方が抱えている問題のひとつと言えるんですね。
さて、もっと言えば、幼少期に十分に愛してくれなかった父親(母親)に対する不満感、寂しさ、欲求などから、“自分がまだ大人になるには十分ではない”という思い(観念)が生まれます。それが、大人になることを怖れ、拒否する動力になります。(特にこの現象を「ピーターパンシンドローム(大人になりたくない症候群)」などと言います)
しかし、表面的には大人のマインドも持ちますから、自分のその恐れや大人になりたくない心理を正当化するようになります。自分が正しければ、間違っているのは“親”ですよね?
ここで親への批判が生まれるのです。(これが思春期の心理です)
これが権威との葛藤のルーツになります。
反抗期は表出しようがしまいが誰にでも等しく訪れます。その期間や程度はまちまちですが、それ故、権威との葛藤は私たち全員が一度は通る道と言えるのではないでしょうか。
しかし、そうした権威との葛藤は、もうひとつの大きな問題を引き起こします。それは、自分自身が権威を持つことを許せないため、人生のあらゆる過程で“頭打ち”してしまうのです。
たとえば、部長のやり方を散々批判していた部下が昇進し、めでたく部長になったとしましょう。
そのとき、それまで散々吐いてきたツバが一気に戻ってくるように感じます。
「投影の法則」により、「今まで自分が部長を批判していたように、自分が部長になれば部下は私を批判するだろう」と感じられるのです。
そのため、こうした部長は、自分が正しいことをそれまで以上に主張したり、自分に批判的な態度を取る部下を冷遇したり、とっつきにくい上司になること請け合いです。
かつて権威者を否定してきた分、自分がそのポジションに立つことを怖れるようになるのです。
だから、昇進を拒否したり、受け入れたとしても保身に走ったりするようになるんですね。
それでは、せっかくの権威も上手に使えません。
権威と言うのはパワーですから、相手を傷つけることもできれば、救い、成功させてあげることもできるものです。
そのエネルギーの強さに振り回されてしまうこともある一方で、いい使い方をすれば、多くの成功を導くことができる、とても大切なものなのです。
皆さんも社長や上司から褒められたら嬉しいし、自信がつきますよね?
ところが、そうして権威を拒否しているばかりかというとそうではなく、その一方では周りとの競争心やプライドが権威を求めるという矛盾も生じます。
散々上司を批判してきた部下が、それゆえ昇進を見送られ、同期のライバルが先んじてしまったとしたら、どうなるでしょう?
暴れたくなる部下の気持ち、また、ライバルに対して強い嫉妬を抱く気持ち、想像できますよね?
権威との葛藤の陰には、そのプライドなどから生まれる嫉妬や惨めさといった“自立の人がもっとも感じたくない感情”が列を成して待っています。
ゆえに「葛藤」なのです。
権威と言うパワーに憧れを持ち、また、欲している一方で、怖れからパワーを持つことを拒否したくなる葛藤です。
しかし、この葛藤の奥にある真実の声はそうした競争やプライド、嫉妬だけではありません。
「本当は誰よりも愛を与えたい存在なのだが、自分は十分に愛を与える自信がない。」
これが「権威との葛藤」の奥にある真実の声だと思うのです。
そのパワーを持つに相応しい器を有しているにも関わらず、それを認めることができないから葛藤する、そんな苦しい姿が見えてくるようです。
彼らには「権威(パワー)を持ったらみんなのためにしたいこと、みんなに与えたいもの」を持っていることも少なくありません。
でも、その資格が十分にないと誤解しているのです。
それ故、パワーを持つことを怖れます。それが男性性の痛みなのですが、ここを癒していくと、権威を持つことを自分に許せるようになっていきます。
では、この癒しに付いて最終回でご紹介しましょう。
>>『傷ついた男性性かもたらすもの(4)~女性性で癒す~』につづく