雇用主に対する不信感

相談者名
ハル
私の雇用主である、ある団体の代表(以後、彼と呼びます)は不正をしています。年々その不正が多くなっています。

最初は「そんな事どこでもやっているテクニックにすぎない。結果良いことをしているのだから何の問題もない」という言葉に、世間知らずの私は「そんなものか・・・」と気に留めないようにしてきました。しかし、だんだんと不正が増えてくるにつれ、私の心は苦しくなり雇用主である彼に対して、不信感と恐怖感、憎しみまで抱くようになってしまいました。「結果がよければ何をしても良いのか?」「多くの人に感謝され評価されているけれど、彼は大嘘付きの犯罪者だ」という思いを常に抱き、コミュニケーションを避けるようになってしまいました。彼も私の心の変化に気付いたのか私を避け、口を聞こうとしなくなりました。その結果、私は自分の仕事がやり辛くなり、職場へ行くこと自体が苦痛になっています。

「ならば、辞めれば?」という声もありますが、今の仕事を出来るのは私しかいない状態で、今私が辞めたら多くの関係のない人までをも巻き込んで迷惑をかけてしまうことになります。彼も私が辞めたらどういうことになるのか分かっているので、本当は辞めてもらいたいと思っているだろうと思いますが、何も言えず、何も出来ず、ただ私を無視し続けています。

仕事は大好きです。やりがいがあります。でも、彼がしている不正を許すこともできません。不信感も憎しみもどう解放してよいのか分かりません。このような気持ちを持ったまま、仕事を続けていけるのか不安です。苦しいです。私はどうしたらよいのでしょうか?食欲もなく眠れない日々が続いています。

カウンセラー
中原謙一
ハルさん、始めまして
私は中原謙一と申します。
よろしくお願いいたします。

読ませていただいて、この問題の難しさと、ハルさんの苦悩がひしひしと伝わってくるのを感じます。

この手の問題は、ベストの答えが存在しない、ひとたび選択をすれば、今まで築きあげてきたものがすべて壊れてしまう、非常に扱いの難しい問題ですよね。
単純に正しいことを貫けるのであれば、悩む必要はないでしょうし、やめることができれば、それも問題にはならないわけです。

しかし、このままではハルさん自身が精神的に参ってしまいますし、だからといってすべてを失ってでも不正を正す、という境地にまではいたらない、といった感じでしょうか。

この問題でハルさんが引っかかってしまう部分は、大きく以下に関することではないかと感じます。
1 雇用主の不正を正し、間違っていることを認めてもらいたい。
2 誰にも迷惑はかけたくない。
3 今の仕事を失ったり、現状を大きく変化させたくはない。

この3つの問題点をクリアすることができれば、基本的なハルさんの問題はかなり楽になるのではないか、と私は感じます。

しかし、この3つの問題点をクリアする方法は、実はひとつしかありません。
それは、雇用主ととことんまで話し合うことです。

雇用主には雇用主の考えがあり、立場があります。
最初は、それがいけないことだとわかっていても、そうせざるを得なかった理由が彼なりにあるのでしょう。
罪悪感というのは、罪の意識から出てくる感情です。
しかし、罪の大きさとは比例しないんですよね。
非常に悪い表現をしますが、100円盗んでも100万円盗んでも、罪悪感は同じなんですよね。
だから雇用主は、不正を繰り返していけるのだと私は感じます。
しかし、最初からそうだったわけではない、というのを、ハルさん自身が一番感じているからこそ、彼に不正をやめて誠実に生きてもらいたい、と感じているのではないでしょうか?

それらの想いを、お互いが納得の行く限り、話し合うことが必要だと私は感じます。

最終的に平行線で終わってしまうかもしれない。
それでも、やらずに後悔するくらいなら、やるだけやって後悔したほうが、ハルさんの心としては相当楽に感じます。

この問題の解決のヒントは、数年前にあった雪印の牛肉偽装事件にヒントがあります。
あの時は西宮冷蔵の社長が告発することで、雪印の偽装問題が明るみに出ました。
しかし、そのことで多くの人が傷つくことになりました。

ではもし、西宮冷蔵の社長さんが告発しなければどうなっていたでしょう?
私はこう感じます。
たとえ西宮冷蔵の社長さんが告発しなかったとしても、偽装された牛肉を食べた人たちは、だまされ続けて傷つくわけです。
そしてそれを知っている社長さんも、自分を傷つけていきます。

この問題も同じなのですが、「誰も傷つかない」「誰にも迷惑をかけない」という考え方がある状態では、答えを見出すことは難しいでしょう。
すでにハルさん一人で抱え込めるものではない可能性もありますしね。

ひとは傷ついて成長するものです。
ひとは誰かに迷惑をかけて、そしてかけられて支えあうものです。

西宮冷蔵の社長さんは、告発することでほとんどすべてを失うことになりました。
しかし、その後社長さんを支えてきたのは、息子さんだったり、元の社員さんたちだったり、社長さんを支持した市民たちなんですよね。

一人ですべてを抱え込むのはやめにしませんか?

そして、ハルさんにとって大切な人たちと「共に」この問題に取り組んでみませんか?

今のハルさんに一番必要なもの。
それは、支えあう仲間ではないでしょうか?

今のハルさんでは、雇用主と話し合ったとしてもハルさんのほうが力不足で押し切られてしまうかもしれません。
しかし、社員全員で雇用主と話し合うことができれば、状況は変わりますよね。

できるかどうかはわかりません。
うまくいくかどうかもわかりません。

大切なことはただひとつです。

ハルさん自身が、後悔しない人生を選ぶことですよね。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

どのような結果になったとしても、後悔しない選択ができるようになるための参考になれば幸いです。

ありがとうございました。

中原謙一

この記事を書いたカウンセラー

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