「私が解消仕切れない問題を通じて人を愛そうとする」と、関係性が壊れてしまうこともある
私たちは「人は自分にとって良いと思うことを、人に与える」ものですね。しかし、もし自分が良いと思うことが相手には苦手なものだったということも有り得る話です。これが原因ですれ違う恋愛も実際にはあるようです。
「私が抱えている感情を通じて人を理解すること」は素晴らしいことですが、「私が解消仕切れない問題を通じて人を愛そうとする」と、関係性が壊れてしまうこともある。そんなお話です。
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例えば、ひさこさん(女性・仮名)の話。
彼女はある男性(彼)に猛アタックされておつきあいを始めることになりました。しかししばらくお付き合いした後、彼から「もう別れたほうがいいと思う、僕は君を幸せにできない」と告げられてしまったのです。
彼女は最初、その男性のことを快く思っていなかったようで、「こんなに簡単に求愛する男性って、きっといい加減な男性に違いない」と感じ、その男性の誘いをお断りしていたそうです。
しかしそれでも彼は諦めず何度も何度も彼女に求愛し続け、彼女も断りきれずに食事に行くことになったそう。そこで彼女は彼の本当の姿を感じ取り、そこからお付き合いが始まったそうです。
彼女は「彼の中のそこはかとない孤独」を感じとり、「どうしてこの人はこんな孤独を抱えているのだろう」そう感じ、「できるならその孤独を私が癒してあげたい」そう思うようになったんです。
ただ彼は相当に自立している男性で、人に弱みを見せることが何よりも嫌いな人でもありました。だからおつきあい当初は彼もひさこさんの愛情に寄り添っていましたが、時間が立つにつれ、彼はひさこさんの好意を受け止めることはなくなり、めっきり合う機会もなくなっていったそうです。
ひさこさんが会いたい、と話しても「仕事が忙しい」と断る毎日。そんな中でひさこさんが「寂しい」と彼に連絡した後、彼が別れを切り出してきたのです。
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これはひさこさんが男性の弱さを一方的に引っ張りだそうとして、男性がそれを拒絶した構図なんですね。
もちろんひさこさんの彼への想い「孤独を癒してあげたい」は女性的な愛情でしょう。ただ問題は「彼はそれを望んでいる人だったのか?」という部分。きっと彼はそれを望んでいなかったから別れを切り出したのかもしれません。
ここで大切なポイントは、「ひさこさんの愛し方がどうして『彼の孤独を癒やす』だったのか」です。
この二人の関係を冷静に見つめると、「ひさこさんが彼の孤独を一方的に愛する」なら、「彼は問題(そこはかとない孤独)を持った人」となり、「ひさこさんは愛する人」となります。
私=愛する人(自立側)
彼=愛される人(依存側)
この構図はこの二人が別れるまできっと変わることがなかったのでしょう。心理学でいう「パートナーシップレベルでの自立と依存が固定化された構図」になっていたのですね。
だから彼は男性のプライドをかけて、依存側に回ることを拒否した結果、別れを決断したとも考えられます。
しかしひさこさんとしては「これだけ彼のために愛情を持っているのに、どうして別れるって言うの?」というハートブレイクを経験することになります。
コレが自立と依存の問題からくる恋愛パターンであった、ということ。
キーワードは「悪意なき加害」という言葉。
ひさこさんに全く彼を傷つける意図は全くなかったとしても、彼にとっては「弱さを引きずり出されることに困惑した」という構図です。
では、ひさこさんはどうしてこういった愛し方を選んだのでしょう?
ここで考えられることが「人は自分にとって良いと思うことを、人に与える」という法則。
ひさこさんにとって「孤独を癒やす」ことが、私にとって良いことだったのでしょう。だから、それを孤独を抱えていた彼に与えた。
しかしそれが彼にとっては良いことではなかったから、別れという結論が出た、としたら。
実は、内心「孤独を感じていた」のははひさこさんであって、ひさこさんが抱えている孤独を通じて、彼の孤独を見つめていた、ということのようです。これが心理学でいう「投影の法則」です。
また、ひさこさんにとっての「孤独」は「どうにか解消したいもの」だったのでしょう。だから彼の孤独を癒そうとしたのかもしれません。
しかし、自立した男性である彼にとっての「孤独」は、ある意味当たり前のもので、自分自身で扱えるものだったのかもしれません。だから孤独ばかり見つめられる彼は、「ひさこさんは俺のの良さを見てくれていないのだろう」と感じても不思議ではないのですよね。
そう考えると、「私が抱えている感情を通じて人を理解すること」は素晴らしいことですが、「私が解消仕切れない問題を通じて人を愛そうとする」と、関係性が壊れてしまうこともあるようですね。
そう考えますと、ひさこさんにとって「その孤独を癒し」、「私の愛情・魅力」といった部分を承認し、心の余裕を感じながら「彼の愛情・魅力」を見つめることが大切だったのかもしれないですね。