「何でもありたくない」という通奏低音

相談者名
N子
このタイトルのような思いを、小さい頃からずっと持ち続けています。
もう今のままではいけないと思い、纏まらないながらもご相談させて頂きました。
今年25歳になる学生です。
小さい頃から、家のルール、学校の流行、どちらにも合わせようとしてきました。友達と同じ話題についていけず、親にも積極的にこうしたい、とはとても言えない子供で、自分がどういう人間なのかはその頃から分かりませんでした。「何でもありたくない」という思いはその頃生まれ、心の中ではどこにも所属しないことで安心するようになっていました。
「私は常に間違っている側にいる」という思いがあり、相手の話を否定せず聞くことだけは出来るので、今まで何とかなってきました。
私には10年の長い付き合いになる遠距離の彼がいます(私が大学受験を機に上京しました。そのときは、自分がどうありたいか決められたということです…)しかし、周囲から呆れられるくらい何もしていません。「普通結婚とか考えるんじゃないの?」と言われますが、私は彼に会っても、触れることも勇気がいるほどの段階です。彼にこんなことをしてほしい、私はこんなことをしてあげたい、そんなことを考えつきもしなかったのです。何でありたいかが分からなかったから。別れたい、と思うのですが、私も何もしてこなかった結果のその思いにすごく罪悪感を感じます。正直、何から話し合ったら良いのかも分かりません。
そして遂に、新たに好きな人が出来てしまいました。私が何者なのか、ということを聞かれるのは、怖いけどとても嬉しいことだと分かりました。それでも、今は話が通じているから出来るだけで、きっとなにもしてあげられなくなる、なにより今ずるずると続けている彼との関係をどうにかしなければと思い、身動きが取れなくなっています。
上京するきっかけになった自分の夢に対してすら真剣になれないほど、私はあらゆるものを傷つけないバランスを取れる立ち位置に意固地になってしがみついています。余計なものを抱え込みすぎている気がします。
何でもないことで、何にも深入り出来なかった。全てに無責任だった。付き合ってくれる人にすら。それを残したまま次の段階へなんて行けません。
皆本当に良い人たちなのです。「何でもありたくない」という思いとどう別れればよいのでしょうか。
カウンセラー
三島桃子
N子さん、はじめまして。今回担当させていただく三島桃子と申します。どうぞよろ
しくお願いいたします。

N子さんの気持ち、よくわかるような気がします。N子さんがご自分の気持ちを整理
して、これからの人生を充実して生きていくためのヒントを見つけるためのお手伝い
ができればと思います。

N子さんが「何でもありたくない」のはなぜでしょうか?

それは、「誰も傷つけないバランスを取れる立ち位置にいたいから」、つまり、「誰
も傷つけたくないから」ではないでしょうか。

「誰も傷つけたくないから」、家庭のルールや、学校の流行など、周りにひたすら合
わせてきたのではないかなと思います。

誰も傷つけないために、自分からは何も求めない、望まない。受け身になる。そうし
ようと思ったら、「自分は常に間違っている」ということにしておく必要がありそう
ですね。「自分は常に間違っている」のだったら、何も求めないこと、望まないこ
と、誰にも反発しないことを、自分で納得しやすいですから。

「自分は常に間違っている」というのは、「誰も傷つけない」という目的のために、
N子さん自身が無意識のうちに作りだした考えではないかと思います。

さて、では、どうしてN子さんは小さい頃から「誰も傷つけない」ということにこだ
わるようになったのでしょうか。

それは、N子さんが非常に感受性が豊かで、観察力も優れている人だからだと思いま
す。そういう才能を持った人は、この世に生まれ、周りを観察する中で、「この人が
こうしたから、あの人が傷ついた」ということを敏感に見てとります。そして、「誰
も傷つけないためには、何もしてはいけない」という結論に達したりします。

この発想は一見理屈に合っていますが、実は、幼い子どもゆえの未熟さからくる考え
方です。成熟した目で見れば、私たちは誰もが傷つけたり傷つけられたりし、同時に
助けたり助けられたりしながら生きていきます。そしてそれが人間の豊かさであった
りもします。誰かに嫌な目に合わされたと思っていたら、後でそのことが自分に幸運
を呼び込むことだってあります。

でも、いくら観察力が優れていても、小さな子どもにはそんなことまではわかりませ
ん。ですからついうっかり「誰も傷つけないためには何にもしちゃいけないんだ」と
思ってしまったとしても、その子が悪いわけでもなんでもありません。そういうこ
とって、起きるのです。ただそれだけです。N子さんの他にもそんな子どもはたくさ
んいるんですよ。

次に、「誰も傷つけたくない」という思いについて考えてみたいと思います。

「誰も傷つけたくない」というのは、要するに、どういう気持ちなのでしょうか?そ
れは、「みんな幸せであってほしい」という気持ちではないでしょうか?もっと言い
換えれば、「みんなを愛したい」という思いではないでしょうか。

「みんな幸せであってほしい、みんなを愛したい」、これは、人間誰もが心の中に
持っている思いです。N子さんも、他の誰もと同じように、そう思ってきただけなの
だと思います。何もおかしなところはありません。みんなと同じだったんですよ。

ただ、小さな頃の未熟ゆえの思い込みは手放していく必要がありそうですね。

「誰も傷つけないバランスを取れる立ち位置」という思いそのものが、幼い子どもの
未熟な思い込みからくるもので、いわば「まぼろし」のようなものです。そのような
立ち位置はないのだと思います。

あるのはただ、「N子さんの自然な立ち位置」というものだと思います。それは、直
子さんが、周りと「ある程度の」バランスを取りながら、自分の感情を素直に感じな
がら生きていく立ち位置です。

そんな立ち位置で生きてくために、何ができるでしょうか。

具体的には、今、N子さんは10年来の彼のことで悩んでいるようですね。

別れを切り出すか、それともこのままつきあい続けるか。

選択肢はこの二つかと思います。

人と人がいい形でコミュニケーションを取っていくために一番大切なことは、自分の
気持ちに素直であることです。これが一番うまくいきます。(その理由もご説明した
いところですが、長くなりすぎますので、今回は省かせていただきますね。)

だとしたら、N子さんはN子さんの気持ちに素直になって彼とコミュニケーションを
取るのがベストだろうと思います。彼の気持ちの問題は彼が何とかすることです。彼
にはそれぐらいの力はちゃんとあります。そこを信頼して、彼の気持ちのことは、彼
にまかせてあげてください。N子さんは、N子さんの気持ちの担当者です。他の人の
気持ちの担当者ではないのです。

これからのことを考えるのに、一人では荷が重いと思ったら、カウンセリングなどを
ご利用くださいね。

それから、さだまさしさんの「いのちのわけ」という歌があるのですが、これもN子
さんを支えてくれるかもしれません。さだまさしさんのCDは図書館などでも借りら
れるかと思いますので、よかったら聞いてみてください。

N子さんのことを応援していますね。

ご相談ありがとうございました。

三島桃子

 

この記事を書いたカウンセラー

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