誰かを守る嘘
嘘はつかれたくないものですし、つきたくないものです。
誰かを傷つけてしまうかもしれない、誰かに悲しい思いをさせてしまうかもしれない、誰かに損をさせてしまうかもしれないというように、誰かに不利益を与えてしまわないように嘘をついてしまうことがあります。
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嘘をついてしまう様々な心理を解説するシリーズ2回目は、【誰かを守る嘘】についてです。
「こんなこと知ったら傷ついてしまうかもしれない」「こんな目にあったら悲しい思いをしてしまうかもしれない」「あんなことになったら損をしてしまうかもしれない」というように、自分以外の誰かが不利益を被らないために嘘をついてしまうことがあります。
誰かがAさんの悪口を言っていたのを聞いてしまった。
Aさんが、「あの人、私のこと何か言ってた?」と聞いてきた。
正直に伝えたらAさんが傷ついてしまうだろうと思って、「何も言ってなかったよ」とか「Aさんのこと良い人だって言ってたよ」と伝えた。
というような場合の嘘です。
いやいや、それでも正直に教えてもらいたいと思うものですが、嘘をついた人が気づかってくれているわけで、良いか悪いかは置いていて、やさしさからくる嘘なのかもしれません。
先に例を出した同じ状況であっても、「何も言ってなかったよ」「Aさんのこと良い人だって言ってたよ」と伝えた理由が、「一緒になって悪く口を言っていたと思われて嫌われたら嫌だな」という理由であれば、シリーズ1回目でお伝えした自己防衛の嘘ということになります。
この誰かを守る嘘というのは、相手を気づかっているわけですから、一概に悪いことだとは言えないのですが、それでも嘘をつかれた側の人からすると、悲しい思いをしてしまうことも起こります。
ま相手を気づかったやさしい嘘だったとしても、その結果嘘をついた人が嫌われてしまったり、悪者になってしまったりすることもあります。
また、嘘だったことが後からわかった場合、「どうして正直に話してくれなかったの」と、余計に悲しませてしまうことも起こります。
誰かを守る嘘と言っても、その人は守ってもらいたくないかもしれないですし、もしかしたら真実を知っても何とも思わないので、守る必要もないのかもしれない。
更に難しいのは、例に出したAさんが悪口を言われていたという場合であっても、悪口だと感じたのは、それを聞いた人であって、もしかしたら悪口ではないのかもしれないということ。
ひとつのことを、複数の人が聞いた時に、その事をどう感じるかはそれぞれ違うことがあるのです。
人は自分の価値観に基づいて話を聞き、状況を見て意味付けをしますから、真実とは違う解釈をしていることもありえるのです。
それらのことを分かったうえで、自分が嘘をついた結果を引き受ける覚悟がいる嘘ということになりますね。
また、これは嘘というわけではないのですが、誰かを守るためや、前回ご紹介した自己防衛するために、「言わない」「黙っている」ということもあります。
その人に知らせないという方法で、嘘をついているわけではないのですが、これもまたそのことを知ったときに、「嘘をつかれた」と感じる人がいるということも知っておく必要があるかもしれません。
「このことは、墓場まで持って行く」という言葉を聞いたことがある人もいらっしゃるかもしれませんが、それくらい「言わない」「黙っている」というのは、やり続けなくてはいけないことですから、とても大変なことです。
また、「言わない」「黙っている」という罪悪感を持つことにもなりますから、一生その罪悪感と持ち続けるという覚悟が必要なのかもしれません。
誰かを守る嘘の場合、それが嘘だとわかったとしても、前回ご紹介した自己防衛の嘘よりも、嘘をついた人を許しやすいものです。
相手の中にあるやさしさを感じ取れるからなのではないでしょうか。