彼女の心の奥に潜んでいたのは、ごくあたりまえの欲求だったのです
こんばんは。
神戸メンタルサービスの平です。
私がカウンセリングしたクライアントさんのなかに、30代前半で、これまでずっと献身的に仕事をしてきたという女性がいました。
彼女は、残業や人が嫌がるような仕事も前向きに引き受けていたので、上司から重宝されていました。
しかし、プライベートよりも仕事を重視した結果、30歳を過ぎても独身で、両親からも結婚のことをうるさく言われていたので、「自分をチェックするために」と、カウンセリングを受けにきてくれたのです。
大学を出たばかりのころは、友だちからの誘いも頻繁にあったようですが、彼女は仕事を優先していたため、お誘いにはいつも、「ごめん、仕事が忙しくって・・・」と断っていました。そして、そんなことが続いたため、友だちも「どうせ、仕事で忙しいだろうから・・・」と、彼女のことをあまり誘わなくなっていったようでした。
そうするうちに、彼女の交友関係は、仕事関係の人たちばかりになってしまいました。また、仕事が忙しくなるにつれ、プライベートの時間もどんどんなくなってしまい、彼女が私のところに来てくれたころには、有給休暇も消化せず、ほとんど休みもとらずに働いているという状態でした。
彼女があまりにも休みをとっていないようだったので、これは怪しいと私は思い、「もし、休みがあったら、どうしたいですか?」と質問をしてみました。しかし、彼女は「さあ・・・」と答えるだけで、あまり話に乗ってきてくれませんでした。
そこで、彼女の深層心理を見ていったところ、そこには、ある恐れがあることがわかってきたのです。「せっかく休みをとっても、一緒に遊んだり、旅行をしたりする友だちすらいない。そんな自分に向き合わなければならなくなる」というものです。だからこそ、彼女は、仕事で忙しくしていなければいけなかったのです。
彼女は献身的に会社の仕事をこなし、少なくとも、とてもまじめにがんばってきました。にもかかわらず、「自分の幸せは、どんどん遠くなっていくばかり」と感じていたのです。
また、彼女はなぜか、自分のために時間やエネルギーを使うことを恐れていました。自分のために時間を使うことが、彼女にとっては、まるで罪悪であるかのように感じられていたのです。
しかし、彼女の心の奥に潜んでいたのは、休暇が欲しいという、ごくあたりまえの欲求だったのです。
こんなに一生懸命、働いている彼女ですから、休みたいと思う気持ちがあるのは当然のことです。ところが、その気持ちがあまりにも大きいので、「もし、一度、休んでしまったら、二度と働けなくなるのではないか」と、彼女の心は恐れていたのです。そのため、彼女は「休みたい」という気持ちを抑圧しつづけ、仕事に没頭していたのでした。
このパターンは、男女関係にもそのままあてはめることができます。
「私が男性を好きになったら、きっとのめりこんでしまう。仕事で疲れきっているぶんだけ、彼に甘えてばかりになってしまうだろう。そして、なにもできずに甘えているだけの自分は、彼から嫌われてしまうだろう・・・」。彼女は心のどこかに、こんなジレンマを抱えていたのです。
この話を彼女にしたところ、彼女が話してくれた人生のイメージとは、「仕事しつづけるか、さもなければ、だれかの奥さんになって、気をつかいながら生きていくか」というものでした。どちらかの選択肢しかないと思っていたのです。ほんとうは、それ以外の選択肢もとてもたくさんあるはずなのに。
そんなことから、彼女は、自分のいちばんの欲求、つまり、男女関係に関する興味を抑圧することに、人生のエネルギーのほとんどを使っていたのです。
みなさんの中にも、経験のある人は多いと思いますが、中学生や高校生のころ、大好きな人の前で、「好きでもなんでもない」というフリをすることに、すごくエネルギーを使ったのと同じようなことです。
私は彼女に、大きな声で「遊びたーい、休みたーい!」とただ叫んでくださいとお願いしました。これを何十回も繰り返してもらったのですが、途中から、大きな声とともに、ものすごく大きな感情が出てきて、彼女は泣きながら、その言葉を繰り返しました。
でも、最後の最後には、笑い転げながら、「私、どうして、遊んじゃいけないと思っていたんだろう?」と、なにか憑きものがとれたような顔で言ってくれたのです。
恋愛の相談を受けていると感じるのですが、日本には、「恋愛をするのは、悪いことだ」と思っている人がとても多いようです。みなさんも、自分をチェックしてみてください。人を好きになることは、素晴らしいことであって、けっして悪いことでもなんでもないのです。
では、次回の恋愛心理学もお楽しみに!!