多くの子どもは、10代で思春期になると反抗期を経験し、親から自立していきます。
個人差が大きいので一概には言えませんが、親のことを嫌い、一緒に行動しなくなったり、口答えをしたり、反抗的な態度を取ったりします。
なかには反抗期がほとんどなかった、という人もいます。
それで特に問題がなければいいのですが、20代、30代になって、実は親からの自立ができていなかった、とわかる場合があります。
たとえば、私は10代の頃、反抗期をあまり経験しませんでした。
父が病気になり手術や入院をして、母は父の看病に忙しく、親に反抗する雰囲気ではありませんでした。
父が仕事に復帰していた時期は少し反抗期らしい気持ちがわき起こり、無性に父のことが嫌いになったりしました。
けれど、私は基本的には親に心配をかけず、父の看病や家事を手伝ったりする「いい子」でした。
父は私が20歳になる前に亡くなり、母が寂しがるのでその後も実家で暮らし、30代で結婚する時にやっと実家を出ることになりました。
そして、結婚して家を出たあと、不思議に思うほど、母のことが嫌いになってしまいました。
その頃は、母の言うことなすことが、とてもイヤでした。
話すと腹が立ってイヤな気持ちになるので、仕事や家事で忙しいことを理由に、自分からは電話をしなくなり、実家に行くのもお盆とお正月くらいでした。
しまいには、
「私は夫と結婚したのだから、夫や、夫の実家の人たちと仲良くしよう。実家は、弟もいるからあまり関わらなくていい」
と思うようになりました。
とは言え、もう大人なのだし、できれば親に感謝の気持ちを持って良い関係でいたいのです。
「なぜこんなに母がイヤなんだろう?独身時代は、たまにケンカもしたけど、そこまで関係は悪くなかったのに」
と不思議に感じました。
けれど、解決法も思いつかず、母と距離を置きつづけていました。
その後、夫の母が病気になって亡くなるなどして、夫の実家に行く機会が増え、私はだんだん夫の家族の一員としてなじんでいきました。
母との関係は相変わらずでしたが、ある時ふと、
「もし、母との関係がとても良かったとしたら、こんなに夫や実家の人たちと親しくなれただろうか?」
という考えが浮かびました。
10代の頃から、父の病気や入院などで、家の中には不安な空気がありました。
父の病気はだんだん悪化し、働くことができなくなりました。
サラリーマンだったため健康保険から手当金の支給がありましたが、期限があり、もし入院が長引いたら家計はどうなるのだろうと心配していました。
母は長年、専業主婦をしており、弟はまだ高校生。
私は大学生でしたが、「早く働いて、支えなければ」と考えていました。
結果的に、私が家計を支える必要はありませんでしたが、父を失って寂しがる母のそばにいて、進路に迷う弟を見守るなど、父の代わりに家族を守ろうとしていました。
そんなわけで、私は結婚することになっても、心が実家に残っていたのだと思います。
それで、いったん母をとても嫌いになることでしか、実家から離れることができなかったのでした。
もし母と仲が良かったら、結婚しても実家優先になっていたかもしれません。
キタキツネには「子別れの儀式」というものがあるそうです。
キタキツネの親は、子どもが大きくなってくると、とつぜん子どもを襲って巣穴から追い払います。
そうやって自立させ、大人として生きていくことをうながすのだそうです。
母は無意識にではありますが、キタキツネの親のように、私を実家という巣穴から追い払い、自立させるために、悪役を演じてくれたようなものでした。
そんなふうに、大人になってからでも、とつぜん反抗期がやって来ることがあります。
もしそんな時期が来たとしても、自立が進むと気持ちが落ち着いていきます。
私も今は、母に感謝の気持ちを感じています。
大人になった子どもが突然反抗的になると、親は戸惑うかと思いますが、思春期にやり残した自立を進める時期と理解してみると、状況を受け入れやすくなるかもしれません。