この夏、私はちょっとした冒険をしています。
それは「海辺で暮らすこと」です。
なーんだと思われてしまうかもしれませんが、私にとっては、ずっとやってみたかったことをずっと実行できずにいて、やっとかなえた夢なのです。
動機になったのは昔々、リンドバーグ夫人の書いた『海からの贈り物』というエッセイを読んだことです。
リンドバーグ夫人というのは、100年くらい前、あの大西洋無着陸飛行を初めて成し遂げたチャールズ・リンドバーグの奥さんで、ご自身もアメリカ人女性で初めてグライダーのライセンスをとったようなすごい人です。
有名人の妻で子供もいて、ご自身も社会活動をしているような多忙な女性が、夏の間、たった1人で海辺に住んで書き上げたエッセイに、高校生だった私は感動しました。
そこには、パートナーシップについて、人の生き方についての強くて美しいメッセージが、浜辺の貝殻になぞらえてつづられていました。
今思えば、まだその内容についてはよくわかっていなかったと思うのですが、「朝起きて、海に走って行って泳ぎ、夜は流木を暖炉にくべて静かに本を読む」というその生活スタイルに(そこ?笑)とても憧れたのです。
いつか私もいろんなものから離れて海辺で暮らして、潮の満ち引きを眺めたり、海風にふかれたり、流木を暖炉にくべたりしたい!と思いました。
でも実際の人生は、生活の「いろんなもの」から離れることはなかなか困難でした。
結婚したり、離婚したり、ハードワークしたり、鬱になってしまったり、親の介護があったり、失恋したり。
うまくいかない人生をなんとか立て直そうと心理学を学んだりしている間に、あっという間に人生は過ぎていきました。
そして、60代になって親もいなくなると、人生は永遠に続くものではないと、身をもって悟ります。
さてこのまま人生はあっという間に終わるのかな?と思ったとき、やりたいことをやらねばいつやるんだ?と思いました。
そこで真っ先に思い出したのが、「海辺で暮らす」です。
今の家を売って引っ越すにはかなりの労力がいるし、リスクがある。
ずっと1人暮らしだったけれど、誰かが家にいる生活っていうのも良いな。
そこで海辺のシェアハウスを借りるという結論になりました。
しかし実際に物件を紹介してもらって話が進むと…
なぜかすごく「怖い」という思いが沸き上がってきたのです。
どうしても住まなくちゃならないわけでもないのに、「やってみたい」なんて軽い動機でお金と時間を使って良いんだろうか?
とんでもない贅沢で分不相応なんじゃないか?
そんな時間があったらカウンセリングの勉強でもしたら?
お母さんが生きていたら絶対叱られる。
亡き母まで登場させて、自分が自分を責めるのです。
そして最後に出てきた思いは「夢をかなえてしまったら、夢がなくなってしまう」です。
心理学では「人は幸せになることがいちばん怖いのだ」と言われています。
これはそういうことだなと思いました。
でも、私が幸せになることで、誰かに迷惑がかかるだろうか?
いやいや。むしろ楽しさや嬉しさを分かち合えるんじゃなかろうか?
今思えば笑えますが、海辺で暮らすくらいで、自分の心の中は大騒ぎだったのです。
で。実際やってみてどうかという話ですが…本当にやってみて良かったと思います。
週のうち半分を都内の家で、半分をシェアハウスで過ごしていますので、都内にいる間に仕事や雑事をぎゅっとがんばり、海辺ではなるべくのんびり過ごすことにしています。
残念ながら、もうかなり前から水着になる勇気はないので、朝起きて海に走っていって泳ぐなんてことはできないし、流木を拾ってくべる暖炉もないし、素敵なエッセイを書いているわけでもないし、憧れとはだいぶ違うのですが、楽しいです。
海辺を散歩して、帰り道にあったカフェでお店の人と話し込んだり、シェアハウスの人たちと近所の美味しいお寿司屋さんに行って、みんなで一緒の家に帰ったりすることは、私がやりたかった想像を超える幸せでした。
お母さんが生きていたら怒るでしょうか?
いや。たぶん「まったくあなたはしょうがないわね。」と苦笑いしてくれるかもしれません。
いろんな人のおかげでうまくいっているけど、失敗だとしたらやらないほうが良かったのでしょうか?
失敗だったら止めれば良いのです。
夢をかなえてしまったら、夢はなくなってしまうのでしょうか?
いえいえ。そんなことはありません。
夢をかなえたら、また新しい夢が湧くものだということがわかりました。
夢がある方、今すぐやりましょう。