癒着があるときほど、人はその相手との距離をとろうとします
こんばんは
神戸メンタルサービスの平です。
彼女は田舎育ちですが、まわりの人からはいつも洗練されたお嬢様に見られます。
清楚かつやさしい人なので、男性からはモテますし、事実、お食事などのお誘いがかかることはしばしばあります。
でも、彼女は男性とちゃんとおつきあいをしたことがほとんどありません。
彼女は、自分の感情を表現するということをほとんどしない人です。そして、とても秘密の多い人です。
だれだって大なり小なり秘密はもっているものですが、人が隠したいと思うことの中には、その人自身が“よいこと”だと思っていることは一つもありません。
つまり、万が一、まわりの人にこんなことを知られてしまったら、自分は非難されたり、攻撃されたりするだろう。だから、隠しておかなくては‥‥と思うわけです。
彼女の両親は恋愛結婚。父親は地元では知られる資産家の子息で、一方の母親は貧しい家庭に育ったそうです。
父方の祖母はそこが気に入らず、なにかというと「お里があれだからね」と口ぐせのように言い、孫の彼女には「おかあさんの実家のことは、だれにも言っちゃいけないよ」と諭していたのです。
そのため、彼女は「母親のことをだれかに話すのは悪いことだ」と感じるようになりました。
もし話したら、「おばあちゃんがおかあさんのことをバカにするように、私もまわりのみんなからバカにされる」と思うようになったのです。
さらに思春期になると母親のことが嫌いになり、祖母と同じように、彼女自身も母親をバカにするような態度をとるようになっていました。
彼女は大学入学と同時に東京に出て、最初に述べたように、まわりの人からはエレガントなお嬢様という評価をされるようになります。
が、自分自身では、「あのおかあさんの娘である私」は、「金メッキでも施したニセモノ」のように感じられて仕方がありませんでした。
そのため、どこにいても居場所がないような感覚があり、いつも気を使い、自分を隠して過ごしていたわけです。
そんな、息がつまるような人生を送ってきた彼女が面談カウンセリングを受けにやってきたわけです。
私はこう問いかけてみました。
「あなたがしてきたそのすべての体験を通して、理解できる人がいるとしたら、それはだれでしょう?」
「え?」
「あなたとおなじように、居場所がない、自分を隠さなければいけないという体験をしてきた人は‥‥?」
「‥‥おかあさん?」
「そう、心理学で“癒着”というのですが、あなたはおかあさんと同じ生き方をしていますね」
癒着があるときほど、人はその相手との距離をとろうとします。すると、心の距離こそだいぶ遠いのですが、じつはその相手と似た生き方をしていた‥‥ということがよくあるのです。
彼女の場合はそれが母親であるわけですが、ネガティブなものをまるで母親代わりして生きているような状況です。
このパターンは、母親を嫌っているというところからつくられたものなので、私は「一度、おかあさんとゆっくり話してみるといいでしょう」と彼女にすすめてみました。
彼女は「こうなってしまったのは、ぜんぶおかあさんのせいだ」と母親を責めています。
また、腹が立つと同時に理解できないのが、「そんなおかあさんのことを、おとうさんはまったく嫌っていない。それどころか、愛しつづけている」ということです。
彼女の父親は人望のある人で、多くの人から尊敬されています。その父親がいつも母親の味方になり、彼女が母親を非難でもしようものなら、「そんなこと、おかあさんに対して言うものじゃない」と叱られることになるわけです。
しかし、その後、彼女は私の提案を受け入れ、母親と話をしたそうなのですが、それによって母親のイメージはずいぶん変わったようでした。
若いころの母親は、いまの彼女とまさに同じような生き方をしていたようです。
が、その、なにごとに対しても否定的な姿勢を壊してくれたのが父親だったというのです。
「もう一度、だれかを信じてみようかな」。そう思った母親は、父親との結婚を決意したのだとか。
そんなおかあさんは、彼女にこう言ってくれたそうです。
「男はあなたの敵ではなく、味方なのよ」
では、来週の恋愛心理学もお楽しみに!!