彩を添える〜感じるこころを大切に〜

 車を走らせていると、日に日に景色が変わるのを感じるこの季節。澄んだ
秋空に金色の炎をゆるやかに巻き上げているような公孫樹が美しい。数ヶ月
前と比べ物にならないほどに影を落としたかのような緑の山に、真紅の楓。
春とは全く異なる街に見せてくれる、桜並木。茶色くなって丸まって、やが
て風にさらわれてしまう葉っぱの数々は、どこへ行くのでしょうか。
 人生はよく一日や一年に例えられるが、これが「ひと月」ではないのは
きっと、その風景にメリハリがあり、心に感じるものが大きいからではない
か、とこんな風景を見ると思ってしまうのです。


 子供の頃からの私の中の「不思議」の一つに、自分が見えているものは全
てみな同じように見えているのだろうか、と言うことがありました。たとえ
ば、自分の思う「青」が他の人にとっての「赤」ではないか、と言うような
感じで。実際に色んな形で学んでいくうちに、それは結局は脳の認知による
ものではないか、と思うに至るのだけど。
 考えてみると、もう半世紀近くを生きてきている私(最近、よくそのこと
を冷やかされるのだけど)、実感は実は皆無と言っても言いすぎじゃないの
です。十代の頃に決心した、「(その当時の)気持ちを忘れないまま大人に
なる」は、どうやら成功し過ぎたのかも・・・?昔思い描いた四十代の私は、
ここにはどうやらいないみたいです。もっと落ち着いていて、人生を達観し
ていて・・・。
そんな私はやっぱりここにはいないな。でも、その頃に思ったのは、人生を
40年も生きると、人生の秋だよな〜と思っていた。その40もとっくに越
え、以前のような記憶力もないし、体力も失せていると言う、厳然たる事実
とは向き合わざるを得ない昨今の私。
 でも、でも。本当にそれだけなのかな?失くしたものしかないのかな?
 いやいや。そうじゃない。手に入れたもの、たくさんある!!
 以前の私には思いもつかなかった表現ができるようになっている。同じ物
を見聞きしても、感じ方がとても多様に複雑になってきていて、楽しみ方が
変わったと言うか増えたと言うべきか。そう、豊かになったと思うんですよ
ね。たとえば昔は思わなかったような繋がりが、今の私に色を添えてくれて
いる、とそう思えます。
 今年ももう残すところ1ヶ月を切りましたが(12月と言う月は、よく何
かが起こるのです、私にとっては人生に関わるような何かが)、この1年、
旧交を温める機会が多い年でした。直接関わることもあれば、思い出すこと
もあったり、初心に戻ったり、と。中でも、高校の同窓会と、YMCAで一
緒に活動していた仲間達との二つのML(メーリングリスト)が立ち上が
り、懐かしい話に触れる機会が増えた、と言うのは、実生活では大きな影響
が一見無い様でいて、心の中に忘れていた「あの感覚」を呼び覚ますきっか
けになっている気がします。
 今の年の半分にも満たない頃、YMCA(日本語では基督教青年団、と言
います・・・。ちなみに私は無宗教です、ゴメンナサイ)で、子供達と一緒
に体操をしたりキャンプや行事をしたり、と言うことをしていました。ボラ
ンティアだったのですが、当時私が抱いていた、あるいは世間的に思われて
いた「ボランティア」とは一線を画していたと思います。ほんまに、楽しか
ったなぁ。
この時期は、「降誕節」に入っていて、クリスマス会を開いていました。皆
で、あーでもない、こーでもないと色々企画を練って、聖劇(キリスト誕生
の話にまつわる劇)を子供達にわかりやすくアレンジしたり、お楽しみ会的
な要素をたくさん取り入れて。ピアノが少し弾けた私は、古いオルガンをよ
く弾いていましたよ。今思うとめちゃくちゃ適当でしたけど。
  さて、こんなことを書くと、なんでここで宗教なんだ、と言う話もあるか
も知れません。でも、先に書いたように私自身、無宗教です。真摯なクリス
チャンの方から見ればそれもまた不謹慎に映るかもしれない、とも思いま
す。でも、私の心に色を添えている大きな要素なのだから、これは仕方があ
りませんね。ましてやこの国・日本は、神社への初詣で1年が始まり、クリ
スマスに至るまで、実はとても宗教的な儀式が普通の日常に溶け込んでいま
すもの。そういった風習が、この国の文化を彩っているんだろうな、と私は
思っています。
 こんな風に、気づかぬ間に白いはずの「自分」と言うキャンパスが、彩ら
れています。この年になるとさすがに修復は難しいものもあるかもしれませ
ん。でも、油彩画は塗り重ねられて味を深め、趣を増します。私たちもまた
そうなんだろうと私は思うんです。まだまだ色を変え、光を感じ、自分自身
の彩を深めていくことはできるでしょう。
 木々は季節を感じて、葉を色づかせやがて落葉します。常緑樹はその蒼さ
を変えながら冬を迎えます。そしてまた芽吹き、葉が茂り花を咲かせ、実を
付けます。私たちの人生では、また生まれ変われると言う保障はないです
が、この与えられた時間の中で、どんな風に自分を色づけていくか、生を閉
じるまで続けるんだな、と思います。
 YMCA時代に学んだ事の一つに、「メンバーズ・ファースト」と言う言
葉があります。それは言ってみれば、学校なら、生徒第一。病院なら、患者
さん第一。営業なら顧客が第一。そういった感じです。私たちのお仕事で言
えば、クライアントさんを一番大切にする。そういうことを肌で、身体で感
じて学んだ時代でもあります。本当に人を大切にするとはどう言うことか。
その人のことを本当に思いやるとはどういうことか。20代前半の私たちが
考えていたことを、それぞれが人生でどう活かしているのか、これが個々の
彩、生き方になっているんだろうな、と思います。
何かの形や枠にはまることも時には必要かも知れませんが、自分をいつまで
も彩り続ける気持ちを持ち続けたい、と今日も私は思って生きています。
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