20年ぐらい前にある人から教わった教訓です。
当時、私は研究開発の仕事をしていて、製品の根幹をなす技術開発がどうにもうまく進まなくて焦っていました。
毎晩遅くまで仲間と実験を繰り返し、通勤の途上でもその事が頭から離れず、また夢にまで出てくる始末でした。
そんなときに、周りで私の状況を見ていた人から言われた言葉がそれでした。私たちは、自分の思いから様々な事柄に囚われてしまう事があります。
そんな時には本来の目的や目標を見失っている事がとても多いものです。
先の製品開発を例にとると、先ず「このような製品を作りたい」という製品のコンセプトを固め、それに応じた「要求品質展開」という形で具体的な技術レベルに落とし込むということを行います。
例えば、製品のコンセプトが「小型」という事であれば、当社従来の製品がどれぐらいの大きさであり、市場にある他社製品がどれぐらいの大きさであり、また、最近の事情を鑑みて(例えば、留守がちのお宅が多いのでポストに入る大きさなど)具体的な大きさを決めます。タテ×横×高さという具合に寸法を決め、それが要求品質展開の「大きさ」の項目となるのです。
そのような、具体的になった要求品質を具現化するために研究や技術開発を行うのですが、「この方法がベストだ」となると、その方法で何とか実現しようと惜しみない努力を払うのです。
しかし、研究開発に限らずどんな事でもそうだと思うのですが、「これでいこう!」と決めた時点では全てが見通せている訳ではなく、様々な伏兵が障害となって現れます。
それをうまく解決できればいいのですが、そのときの私のように、どうしても解決の糸口が見つからない状況もあるのです。
私はその「山の紅葉」の話を聞いて、ハッとしました。
「この方法」にこだわることも研究開発者としては大切ですが、しかし、期限までに製品を具現化する事はより大切だという事に気がついたのです。
確かに、「この方法」がうまくいけば、それに超したことはありません。
しかし、目的はその方法を成功させることではなくて、製品を具現化することなのです。
そこで私は別の方法を検討してみることにしました。
そうすると、「その方法」により明らかになった事柄も加味して考えると、別の良い方法がありそうだという事が分かりました。
そこで、私は大きく方向転換して、その「別の方法」に進むことにしました。
しかしながら、「その方法」を手放すには、とても勇気が要りました。
負けたような感じがしたり、力のない自分を感じたり、頑張った事が無駄になると感じたり、一緒に頑張ってくれた仲間に申し訳ない感じがしたりと様々な思いが出てきました。
しかしそれよりも、目的を達成するために勇気を持って「別の方法」を選択することにしたのです。
結局、他の方法に乗り換えた事で、その製品を期限通りに製品化することができました。。
何か物事がうまく進まないときには、今やっていることややりたいことはとりあえず一旦横に置いてみて、その原点である目的に立ち返ってみるのも問題解決の糸口をつかむ1つの方法ではないかと私は思います。
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