およそリーダー向きの性格ではないのにリーダーになってしまった人へ

リーダーシップという名の「役割」「自分にはリーダー適性はないのではないか」と悩む人は少なくないのではないでしょうか。「出る杭は打たれる」と言うように、日本人は権威に案外厳しいので、リーダーというポジションについたとたんに有言無言の批判にさらされる感覚から孤独感に苛まれ、自分のリーダーとしての適性に不安を持ったとしても不思議ではありません。しかし、心理学の実験では、リーダーとしてうまくやれるかどうかは個人の特性とはあまり関係ない、という結果が出ています。つまり、「私はリーダーとして不向きだ」と思い、「だからうまくいかない」と悲観する必要はないのです。

『英国王のスピーチ』という映画をごらんになったことがありますか?ジョージ6世は吃音に悩む内気な人でした。ところが世界が第二次世界大戦に突入する時代、国王として人心をまとめる立場におかれます。リーダーとしてコミュニケーション能力を発揮することを求められます。ここには、「リーダーになりたかったわけではないけれどリーダーをやらざるを得ない立場に立たされた」人、「リーダーとしての資質があると他人に認められなかった」人、「自分が一番劣等感を持つことをリーダーとして求められた」人の、プレッシャーとコンプレックスと無価値感を乗り越える姿があります。

現在、世界で名だたる会社のカリスマ社長たちが、20分のスピーチをするためにそれこそ入念な準備とリハーサルをするのを私は見てきました。スピーチトレーナーに言わせれば、「自分は話すのが得意だと思っている人ほど独りよがりな話し方になる」そうで、苦手意識を乗り越えようとする姿勢こそがコミュニケーションスキルを磨くのでしょう。

いいリーダーになるのに必要なのは、ある特定の「性格」ではありません。リーダーは、一つの「役割」で、必要なのはその「役割」をこなすための最低限の「スキル」とその「役割」を「引き受ける」という心の「姿勢」です。どんな性格であろうとも、リーダーという「役割」を果たすという気持ちと、そのための「スキル」を身につけるためのトレーニングが、いいリーダーを作ります。

「役割」は「仮面」のひとつ

リーダーには、「役割」として求められる「仕事」があります。「判断」して「決断」することや責任を引き受けること、上で述べた「コミュニケーション」も大事な仕事の一つでしょう。

あなたが小さな声も大事にしたい人で、みんなの気持ちを考える優しさの持ち主だと、「決断」を求められるたびに激しく葛藤するかもしれません。一人一人の顔を思い浮かべるほどにどの解決策も一長一短で決め手に欠けるように思われます。実際、多くの問題がそういう性質のもので、だからこそ誰かが「決断」を下さないかぎり、「みんなが動けない」というより大きな問題が生じます。リーダーは、この「決断する」という「役割」を果たす係です。そして、その「決断」により問題が解決しなければその「責任」を負うという係で、その結果はその人の人間としての優劣、例えば「優しい」かどうかを証明するものではありません。

こんなとき覚えておきたいのは、「役割」というのは舞台でつける「仮面」のようなものだということです。心理学では、この「仮面」を「ペルソナ」と呼び、一般に「人格」と言われるものですら「ペルソナ」で、その人の本質ではないと考えます。私たちは、誰しも多面性をもっていて、時と場合に応じてさまざまな人格(=ペルソナ)を使い分けています。リーダーという「役割」もそのうちの一つにすぎないというのです。

リーダーという「役割」を引き受けるとき、少なくともその舞台では、もともとの性格がどうであれその係としての「仕事」をするという「仮面」をかぶることが求められます。それは、女優・男優がその演目の中では「役」になりきることを求められるのに似ていて、中途半端な演技にブーイングがくるように、リーダーという「役割」も「仕事」をしてもらわないとあなたがどんなに人間としていい人であっても苦情が寄せられることになります。

たかが「仮面」、されど「仮面」。舞台の上ではしっかりとかぶり続けることが大事ですね。

自分という存在への信頼

たまたま渡されたリーダーという「仮面」が好きな人は、舞台をおりてからも「仮面」をかぶり続けようとして顰蹙をかうこともあるでしょう。でも多くの現役のリーダーたちにとっては、どうこの「仮面」をかぶり続けたらいいかが課題なのではないでしょうか。特に、この「仮面」に違和感をもつ人にとっては、「仮面」をかぶった自分と自分が本来「自分だ」と感じている自分とのギャップに、自分が引き裂かれそうに感じるかもしれません。

そんな時こそ、「仮面」は「仮面」、「自分」は「自分」ときっちりと心の中で分けるといいようです。「仮面」をかぶったあなたは、自信をもって決断するあなたであったとしても、「自分」は気弱で優柔不断でいいのです。気弱で優柔不断な「自分」を心の中でしっかりと抱きしめて、これが「自分」だと認めます。その上で、もう一度「仮面」をかぶることを引き受けてください。あなたが「仮面」を引き受けた度合いだけ、「仕事」を誠実にこなそうとするあなたの「優しさ」が周囲に伝わるでしょう。

それは、「ペルソナ」という一面では語り尽くせないあなたという「存在感」が伝わるからです。「係」として求められることを誠実にこなすことで輝き出す、「ペルソナ」を超えたあなた自身の存在感をもっと信頼してみませんか。

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