雨の日は苦手な客先を廻れ

かつて駆け出しのセールスマンだった私に、営業のイロハを教えてくれたのはある得意先の社長でした。あまりに未熟な新人セールスマンを心配しては、名刺の差し出し方から電話の掛け方、セールストークの組み立て方まで教えてくれた社長でしたが、その社長がある時教えてくれたのが「雨の日こそ苦手な客を廻れ」という事。

つまり、雨の日はどんなセールスマンでも外回りはしたくないもの。そんな日には知らず知らずのうちに話の弾みやすい得意な客先ばかり訪問してしまい易い。 だからあえて、雨の日にはちょっと苦手な客ばかり訪問する。すると、できるだけ永く話ができるように工夫をするし、相手から見れば、こんな日にわざわざ、といつもよりちょっとは話を聞いてやろうと思う、というのが社長の理論でした。

以来私は、雨の日にはあらかじめ決まったアポイント以外は得意じゃない顧客、まだ馴染みではない新しい顧客を訪問するようになったのですが、雨だから話を長く聞いてくれたのかはわかりませんが、雨の日の訪問を始めてからは初めて訪問するお客さんにも名前と顔を憶えてもらいやすくなったような気がしています。

確かに、雨の日にずぶ濡れになりながらも元気に訪ねてくる若いセールスマンを想像してみると、アグレッシブさや、微笑ましさを感じます。

そんな話をある時後輩にしたところ、素直な彼はこのエピソードを基に、その教えをすぐに実践に移しました。

ところが、どんなに頑張って雨の日に顧客廻りを続けても成果があがるどころか、一部の客先からは「もううちに出入りしないでくれ」と言われる始末。

これはどうしたことかと、ある雨の日、一緒に営業に廻ってみてすべてガテンがいきました。その後輩は、雨に濡れながら顧客を訪問するや否や、「お世話になります○○株式会社の○○です、いやぁひどい雨ですね~もう嫌になっちゃいますよね」と話し始めたのです。

雨に濡れながら明るく訪問してくるセールスマンからはポジティブさが伝わってきます。
いっぽう、雨に濡れて「いやぁ大変ですねぇ」と不満気に入ってくるセールスマンにはどうでしょう?

なんだかネガティブな感じがして嫌な気分がする場合もあるかもしれません。

私たちが他者に対して抱く印象というのは、理屈や理論よりも、もっと感覚的なものから影響を受けているといわれています。
頭で理解するよりも早く、「気分がいい」「気分が悪い」というのを私たちは感覚的に察知して、それを相手にリンクさせて印象として認知しています。

相手に良い印象を持ってもらいたければ、できるだけポジティブな感情を与えるよう工夫をすべきだし、 怒らせたり、不安にしたり、ネガティブな感情は極力与えないように努めるべきです。

そもそも客先に持参する手土産や、担当者への接待といのは、嬉しい、楽しい、気分がいい、といったポジティブな印象を抱いてもらうための手段といえます。

「雨の日に客先を廻る」というのも、実は相手にポジティブな印象を与える感覚的なセールスのコツといえるかもしれません。

訪問してくるセールスが何を提案するか、どんな話を持ってくるかよりも、実はそのセールスマンがどんな印象を顧客に与えているか?によって、ビジネスの成果は時に大きな格差を生みます。

もしあなたがセールスマンで、思うような成果を上げられていないとしたら、セールストークや交渉力を疑う前に、どんな印象を顧客に与えられているか?をチェックしてみると良いかもしれません。客先を訪ねるとき、あなたはどんな顔をしているでしょう?

それは相手を「良い気分」にする表情でしょうか?それとも「嫌な気分」にさせる表情でしょうか?もしそれが、相手を嫌な気分にさせる表情だったとしたら、まずはあなた自身の機嫌をよくしてあげることを考えてみてはどうでしょう?

きっと、今よりずっと簡単に顧客と良好な関係を築けるはず。

ちなみに、お世話になった社長が話してくれた教えのひとつに、こんなのもありました。

「セールスマンにはな、どうしても気分が乗らない日というのがある。」
「そんな日は。。。サボって映画でも行ったらエエ(笑)。」

担当した3年の間、私がその社長を訪ねるのはいつも晴れた日だけでした。

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