彼女は、現在はウエディングドレスからバッグやアクセサリーまでをデザインする会社のオーナーですが、その原点としてはじまったストッキングはあまりに有名です。
当時、おしゃれな柄の入ったストッキングは、まだ種類も少なく、しかも高価で百貨店などで数千円で売られていて、一般のOLが手を出すのにはちょっとした勇気が必要だったと記憶しています。
その上、すぐに破れてしまうような繊維を使っていたので、本当に特定の日でないとなかなか履くことはなかったものです。
それが、彼女の創った商品で、社会的に柄パンストの常識ががらりと変りました。
自らがモデルをつとめたパッケージの写真は、私たちの心をつかむのにじゅうぶんなデザインのものでした。
それは日常で履くのに適した柄でありながらも、どこか洗練されていて、しかも販売ルートのコンビニで手軽に購入できるものだったのです。
後からTVで観たところによると、彼女は普通のOLでも気軽に購入できるように価格帯を設定し、しかも破れにくくて丈夫であることにこだわりを持って創ったのだと話していたのでした。
せっかくおしゃれなストッキングを購入しても、すぐにやぶれてしまって悲しい思いをしたから、同じ創るなら破れにくいものを、と妥協しなかったそうなんです。
さらに、当時海外に行く機会が多かった彼女は、フランスなどで柄ストッキングを買いだめしていたそうですが、普通のOLがストッキングのために海外に行くことなどないと考え、手軽に購入できるコンビニでの販売というのも大切にしたそうなんです。
数々の高価なブランドをもち、おしゃれで有名な彼女でしたが、商品を創るときのその姿勢は私の共感を呼びました。
それは、商品を手にする誰もが楽しめる、多くの女性が楽しめるというものであり、彼女は本当におしゃれが好なのだと、被服そのものや商品を手にとるお客さまに対する愛情を感じたのでした。
その彼女が、デザイナーとして成功をして、そのことを振り返って、著書でこのように言っていました。
私は、おしゃれが好きだったけど、自分から求めてデザイナーになったというより、そのとき与えられた仕事を一生懸命やってきただけ。
最初にきたストッキングのときも、そうだった。
私なりのこだわりを持って、とにかく一生懸命やってきたら、ここにたどり着いたという感じなの。
具体的な言葉は違うかもしれませんが、このようなことが書かれていました。
私は、仕事で成功しているといわれている人たちの多くが、同じようなことを言っている事を思い出しました。
「与えられたことに対して、心を込めて一生懸命やってきただけ」
一生懸命やっている姿勢やふるまいは、必ず誰かが見ているんですよね。
それは、お客さまであるかもしれないし、同僚かもしれないし、上司かもしれません。
そして、私たちも、同じ商品を購入するなら、一生懸命愛情をもって仕事に取り組んでいるひとから買いたいと思いませんか。
また、一緒に仕事をするなら、一生懸命楽しんで仕事をしているひととしたいと思うのではないでしょうか。
彼女のストッキングについても、彼女なりのおしゃれに対するこだわりや愛情があったから、爆発的な人気になったのではないでしょうか。
でも、一生懸命やるといっても・・・。
「今の仕事が面白くない」
「こんな仕事がしたいわけではなかったのに」
そんな風に思うかもしれません。
私は、よく、仕事に対して「もっとこうなれば」、こんな風に思ったものなんです。
もっとスキルがあれば、もっとこんなだったら、あんなだったら・・・。
ところが、「もっとこうなれば」「こうなったら」というのは、もっと、もっと、というように際限がないんですよね。
高いところを目指していて、一見してすばらしいことのように見えますが、気持ちは未来ばかりを見ていて、「今」を見ていないんですよね。
一方、私たちが感情を感じることができるのは、「今」に対してのみといわれています。
例えば、過去の嫌なことを思い出して嫌だなと感じているとしたら、それは「今、感じている」のです。
それは、未来に対してもしかりなんですよね。
そのことに気づいて、「今」に対して気持ちを注ぐようにしてみたんです。
ただ、今の仕事を、心を込めて一生懸命やるように心がけてみたんですね。
どんなことも、ある側面からみたら違うように見えるものなんですよね。
取り組みだしてから、単純な私は仕事が楽しく感じられるようになったんです。
そして、そんな自分を誰かが見ているものなんですよね。
上司や患者さんからも感謝されるようになったのです。
すると不思議なもので、流れがスムーズになって、いい仕事が入ってくるようになったんです。
転職したわけでも、仕事内容について上司にかけあったわけでもないのに、単純なルーティンが減り、代わりに別の仕事を任されたのです。
今、与えられている仕事がたとえ自分が望んでいなかったことであったとしても、愛情を注いだり一生懸命やっていくことはできると思うのです。
そして、それはこの先、あなたが望む仕事に就いたときに、同じように効果を発揮してくれると思うのです。
懸命な読者の方ならば気づいておられると思いますが、楽しい仕事をすることと、仕事を楽しむことは違うんですよね。
やりがいのある仕事をすることと、仕事をやりがいを持ってすることは別のことだと思うのです。
前者は「仕事の内容」そのもの、自分の外側に主体が置かれていますが、後者は自分の内面に主体が置かれています。
前者を変えるのには大きなリスクが伴う上に、なかなかうまくいかないものですが、後者は今すぐでも変えることができますよね。
そして、今あることを一生懸命やることで、その姿勢が評価されることはあっても、今より悪くなることはありませんよね。
何より、仕事を楽しむことができれば、あなたが楽しくて、いい気分を味わえるんです。
すごいことをしなくても、今すぐでも始められる一歩。
「今与えられていること」を一生懸命やるということ。
あなたも、始めてみませんか。
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