例えば、褒めて認めてもらいたいという部下のニーズを満たしてあげるには、叱咤激励するのではなく、できるところを褒めて、認めてあげることが必要です。ところが、実際にやってみようとすると、なかなかできないことがあります。
つい「もっと頑張れ!」と言ってしまうのです。
また、信頼して任せてほしいという部下のニーズを満たしてあげるには、「君に任せた」という一言を伝え、信頼してあげることが必要なのですが、やろうとすると、どうしても信頼できなくて、自分から手を出してしまったりすることがあります。
そしてつい、あれやこれやと自分のやり方を指示してしまう。
上司が苦手だと感じる対応が必要な部下は、上司の満たされなかったニーズを教えてくれているのです。
部下にニーズがあるように、同じ人間である上司にもニーズがあります。
前回の記事でお話させていただいたように、会社内の人間関係の心理は、家族関係の心理と、まったくといっていいほど同じです。
会社での上司であるあなたに対して部下が求めてくるニーズは、部下が子供のころの家族内での権威者(父親であることが多い)に対して求めていたニーズと同じです。
そのニーズを満たしてあげるのに、抵抗感が出てきたり、やろうとしてもうまくできないときは、上司が子供の頃に家族内の権威者からやってもらえなかった対応を、求められているからなのです。
「父親は、ぜんぜん褒めてくれなかった」
「親父は、一度も俺のことを認めてくれなかった」
それなのに、部下に対して褒めて認めることを、求められているのだとしたら、抵抗感が出てきてあたりまえかもしれません。
「父親は、何でも自分の思い通りにさせようとした」
「親父は、信頼してくれたことなど一度もなかった」
それなのに、部下に対して信頼して、任せることを求められているのだとしたら、抵抗感が出てきてもあたりまえなのかもしれません。
自分が満たしてもらえなかったにも関わらず、部下に対して満たすことを求められるとき、心に葛藤が生まれるのです。
心に葛藤が生まれるとき、それは上司の中の隠れたニーズを教えてくれているのです。
「父親に、褒めて認めてもらいたかった」
「父親に、信頼してもらいたかった」
これらが、上司が持っていた隠れたニーズです。
あなたが、抵抗を感じ、心に葛藤が生まれる部下への対応は、何でしょうか?
そこには、必ずあなたの隠れたニーズが潜んでいます。
そして、あなたのそのニーズを満たしてくれなかった権威者に対して、不満や怒りをあなたが持っていることを、教えてくれているのです。
自分が満たしてもらえなかったにも関わらず、部下のニーズを満たしていける自分になるには、子供時代に自分のニーズを満たしてくれなかった家族内の権威者を、理解し許していく必要があります。
怒りを持ったままですと、部下のニーズを満たすことに抵抗感を感じたままになるからです。
なぜ、あなたにとっての権威者は、褒めてくれなかったのでしょうか?
もしかしたら、その人も誰にも褒められたり認められたりしたことがなかったのかもしれません。
そうなのだとしたら、今のあなたと同じ立場です。
誰にもやってもらったことがないことを、自分がするということは、どれほど大変なことか、今のあなたが一番知っているかもしれませんね。
なぜ、あなたにとっての権威者は、信頼して任せてくれなかったのでしょうか?
もしかしたら、誰かを信頼して、裏切られた経験があったのかもしれません。
そうなのだとしたら、人を信頼することが、とても怖くなっていたのかもしれません。
本当のことは、わからないかもしれませんが、もしも理由があってできなかったのだとしたらと考えてみるといいかもしれませんね。
人が何かをできないのには、必ず理由があるのです。
そのできない理由を超えられなかった人を、許してあげるのです。
その人は、昔あなたにとって権威者だったのかもしれません。
でも、その権威者ができなかったことを、あなたが理解して許してあげることができたとき、ニーズに対応する力となり、あなたの仕事力をアップさせてくれるのです。
自分がやってもらえなかったことを、部下の為にやってあげられる自分というと、いったいどんな感じがするでしょうか?
きっと素晴らしい人のように感じることができると思います。
自分の心の葛藤を超えて、部下のことを考えてくれる上司に対して、部下は魅力を感じます。
「この人のために、頑張ろう」そう思ってくれるようになります。
ぜひ、あなたの隠れたニーズを探し出し、チャレンジしていただけたらと思います。
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